88.ユキと家庭教師
翌日もその翌日も、シオリはAI新書店別館の中で一人くつろいでいた。
午後の休講が連日続いたので暇になり、喫茶店に行く感覚でこの本屋に立ち寄るのが嬉しかったが、ユキがバイト三昧になっているし、ユキもカンナも来ないので少し寂しい。同じ趣味の人たちは店内にいるが、知り合いがそばにいる方がいい。
チャットで呼びかけても、反応するのはカンナか、休憩に入ったミキのみ。ユキは退出したままなので、電話で呼び出されたその後が気になる。
『ユキちゃん、来ないね』
これは店に来ないこととチャットに入らないことの両方をかけての発言だ。
すると、シオリに電話がかかってきた。カンナからだ。
『あそこに書けないから電話で。家庭教師が付けられたそうです』
ついに実力行使に出てきたかと、シオリはユキを同情する。
「そうなんだ」
『なんか、成績ががた落ちし、そっちに入り浸っていたのが、買い食いでは済まないほどの小遣いの目減りでバレたって言ってました』
「あらら」
『んで、個人指導の家庭教師を。でも、その会社、なんか怪しい感じがするんです』
「怪しいって?」
『最近出来た家庭教師派遣の会社なんですが、マンションの一室なんですよ。こう言うのって、怪しくないですか?』
「まあ……全部が全部怪しいとは」
『いや、絶対怪しいですって。T大学の学生を派遣するってうたい文句なのですが、四人くらししかいないとか。始まったばかりだからって弁解していますが』
「カンナちゃんの勘なのね、その怪しいって言うの」
『ハハハッ! なにげにカンナをぶっ込んだ駄洒落ですか?』
「勘なのね……ああ、そうか!」
『ユキがかわいそうです。よりによってそんな家庭教師を付けられて。あっ、そろそろ切りますね。続きはチャットで。出来れば、ユキの話題を避けていただいて』
「ごめんなさい」
電話が切れた後、シオリがため息をついてスマホをテーブルに置くと、セバス君が扉を開ける音がした。
まさか、ユキがフラッとやって来たのかと思って衝立から顔を出したシオリは、ギョッとして首を引っ込めた。
入ってきたのは、マサキとナナミだったからだ。