87.誰が新作を書いているか信じてくれない
言うべきか否か。
でも、ミキには伝えた。それをカンナに黙っている理由がない。かといって、ここでべらべらしゃべると、周りに聞こえるかも知れない。
まあ、セバス君がさらっと白状するくらいだからいいかぁとも思ったが、ユキにも伝わるようにチャットで話すことにした。
スマホを取り上げたシオリを見て、それとなく察したカンナもスマホをポケットから取り出す。
『このお店で新作を書いているのは誰かという話。実は、セバス君なの』
カンナは目を剥いた。
『マジで』
『しばらく秘密にしてね』
『それはないと思いますよ』
『秘密が?』
『いやいや、セバス君が書いているって話』
『なぜ?』
『ボーッと突っ立っていて、お茶とケーキを運んでいる人が最大十六人分の小説を同時に書くんですよ』
『本人が言っていましたよ』
『それ、ジョークですよ。真に受けない方が』
急にシオリは自信喪失する。でも、あの会話を思い出しても嘘には聞こえなかったので、すぐに立ち直る。
『ホントよ』
『証拠はあるんですか?』
『本人が言っていた以外は』
『シオリさんが嘘ついているとは思えませんから、セバス君が言ったというお話だけは信じておきます。でも、そんな技術、あり得ないですよ。いくら高度なアンドロイドが作られていると言っても』
『確かに証拠はないわね。セバス君のジョークだったら、ごめんなさい』
『シオリさんは信じているんですよね?』
『ええ』
『だったら、それ、小説にしてはどうです? 推理物に仕立てて』
そう書いた後、カンナは目を上げてニッコリと笑った。