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86.カンナの夢(2)

「そのお作法って、礼儀作法のことだと思うけど、知っておくと便利な場面もあるわよ」


「それは――」


 そう言ってカンナが身を乗り出す。


「うちらより一歩親の年齢に近いシオリさんだから、世間のこともよくわかっているでしょうし、実際に必要な場面に遭遇するからそう言っていると思いますが」


「…………」


「言われる方は、そういう場面になったことがないし、ピンとこないんですよねぇ。リュック一つで旅に出るつもりが、これも必要あれも必要って荷物を追加され、いつの間にか両手にボストンバッグ持たされたようなものです。で、実際にはそのほとんどが必要ない」


「つまり、年齢に応じた知識とかにして欲しいと――」


「ぶっちゃけ、そういうことです。箸の持ち方なんかがファミレス行って困るなら真剣になりますけどね」


 そう言って、カンナは口に手を押さえて笑う。手を離すと、大笑いになるからだろう。その点は、この店での礼儀をわきまえている。


「教えるのが早すぎるのです、ユキの家。いや、気を回しすぎで、うるさすぎなのです。きっと、親子代々そうなのでしょうが、自分が子供の時にどう思ったかをよく考えて欲しいです。って人んちのことなんかどうでもいいんでしょうけど、私はユキのことが放っておけないから」


「ユキちゃんのことが大好きなんだ」


「幼馴染みなんですよ。それに向こうの親――っちゃいけないな、ご両親――がお得意さんでもあるし。昔からの付き合いで、進物用にとよく買ってくれます、いや、お買い上げになります。箱単位でたくさん」


「へー」


「二人の夢は、作家になることでした。小さいときはそれでお互い書いた物を見せ合いっこして。大きくなったら、投稿小説をお互いが読んで。でも……」


「でも?」


「ユキって、才能あるのになんかが足りないのです。ひとりよがりっちゅうか。それで、もっと本を読めってここに誘ったんですが、少しは良くなったと思ったら、書いたらすぐにエターにしてしまう。それっておそらく――」


「お家のことで?」


「そう。才能の芽を摘んでいるのは、あちらの親です。きっと……ひがみじゃないですか?」


「ひがみ?」


「自分に文才がないことの。それで」


「それはないと思うけど。才能を伸ばす方に親も力を入れるはずよ」


「じゃあ、なんで『小説を書くな』って言うんですか?」


「えっ? そんなこと言っているの?」


「らしいですよ。文筆業イコール貧乏と思っているなら、ひどい偏見です」


 シオリは、自分の家でも似たような議論があったことを思い出す。


「とにかく、人気作家の実家が和菓子屋ってことで、お店も繁盛すればいいなぁと」


 笑顔のカンナが腕を組んで背もたれに体を預けた。


「それが夢なんですけどねぇ。……なんか、この店みたいに、どんどん新作が書けたら……って、AIには勝てませんが、少しでも近づけたらいいなぁと」


 再びカンナが身を乗り出した。


「ここの新作、誰が書いているんでしょうね? シオリさん知ってます?」


 その問いかけにシオリは心臓が凍り付いた。


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