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83.本が目的ではない来店

 ナナミがこうも言えないこととは何だろう、とシオリは考えた。



 ――マサキのことで知っている事柄のうち、あまりおおっぴらに言えないこと。



 となると、大方、マサキがこそこそやっている何かだ。


 そもそもマサキがこの店にいること自体、違和感があった。それで、なぜこの店にいるのか彼に詰問したら、あっさりとこう答えてくれた。



『……ゼミの先輩で、とある企業に就職した先輩の紹介で会員になっただけ。それだけだよ』


『ぶっちゃけ、付き合いだよ、付き合い。先輩に逆らえないし。わかるよね? 特に、志望する会社に就職した先輩とかは』


『その先輩、AIに興味があってね。もちろん、僕もだけど。先輩が、この店にあんまし来れないから、お前たちが行って調べて来いと。白羽の矢が立ったら、行くしかないっしょ』


『ねえ、ここで本を誰が書いているのかなぁって、興味ない?』



 シオリは頭の中で閃光が走ったように思えた。


(そうだ! おそらく、これだ! ナナミさんが知りたいのは、マサキ先輩の店内の――いわゆるスパイ活動だ!)


 その結論に達したころ、ナナミが口を開いた。


「マサキが、何か変なことを言ってませんでしたか?」


 さんざん考えてこの程度の質問しか出せないのか、とシオリは嘆息する。


「さあ……。普通でしたが」


「何をしゃべりましたか?」


「それよりこちらからいいですか? お伺いしたいことがあります」


「質問をはぐらかして質問ですか? それなら私もはぐらかしますよ」


「お答えしたくなければ結構です。ナナミさん、あなたは、マサキ先輩と同じゼミの方ではないですか?」


 答えはナナミの顔に表れた。一瞬ギョッとしたのをシオリは見過ごさなかった。


「……そ、そんなことを話していましたか?」


 これは完璧な答えだろう。動揺して口走ってしまったのかも知れない。


「いえ、話はしていませんでしたが、ヒメコさんが同じゼミだったらしいので、ナナミさんもそうかと」


「なぜそう思うのですか?」


「このお店、どうやったら入れるかご存じですよね? 外のボタンを押すとかではなく」


 目を見開いたナナミは、無言を貫く。しかし、それも態度で答えを示しているとシオリは推測し、テーブルの下に隠した両手を思わず握りしめる。


「紹介する人がいて初めて入れるのです。マサキ先輩とヒメコさんを紹介できる人にナナミさんも紹介された。違いますか?」


「…………」


「ナナミさん。本はお好きですか? どんなジャンルがお好きですか?」


「れ、恋愛とか……」


「なら、この店で何の新作本を注文されました? 48時間経ったら公開されますから、ナナミさんが書いてもらった小説のタイトルを教えていただけますか?」


 すると、ナナミはスッと立ち上がって、そのまま自席に戻っていった。それから、重そうなバックを肩にかけて、一度シオリの方を横目で見て去って行った。


(本を読まない人は、この店に来ないで欲しい)


 シオリは盛大にため息を吐き、肘をテーブルに付いて両手に顎を乗せた。


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