81.不気味な女
翌日、サークル部屋にて代表に辞めたいと伝えたシオリとミキは、拍子抜けした顔で部屋を後にした。
「何も言われなかったわね」
「ああ。多少は引き止めがあるかと思ったのに、何一言なかった」
「もしかして私達、いてもいなくてもよかったとか?」
「それより、『今度飲み会誘うから来てね』って、あれはないよなぁ」
二人は顔を見合わせて失笑した。
ミキはキャンパスを出ると「バイトがあるから」と言ってシオリと別れた。ミキの背中を見送るシオリは、振っていた手をダランと下げると、気を取り直してAI新書店別館へと向かった。
今日の店内は、右奥のテーブルだけが空いていた。いつもの癖で左奥のテーブルに足が向かってしまったシオリは、奥まで行ってからグルッと右へ回ろうとしたとき、左奥のテーブルに黒のワンピース姿の女性がこちらを見ていることに気づいた。
黒髪ロングヘアで姫カット。たまたま向かいの壁に掛かっていたモジリアニの女性の肖像画とダブって見えてしまうほど、恐ろしく面長で長身かつ痩躯。病的なほど青白い顔を向けて、シオリの一挙一動を見つめている。
(何、ジロジロ見ているのかしら? 気味悪い……)
視線を浴びる背中がチリチリかゆくなる感じがしつつ、衝立を迂回して壁に向かい、長椅子に着席する。すると、程なくして、衝立の横から先ほどの女性の顔がヒョイッと現れた。
「ひっ――!」
幽霊かと思って思わず悲鳴を上げそうになったシオリに女性は詫びることなく、「ごめんなさい、ちょっといいかしら?」とアルトの声で問いかける。
「な、何ですか?」
「訊きたいことがあるの」
「何を――ですか?」
「マサキのことで」
シオリは、貧血になりそうなほど四肢から血の気が引いた。