80.サークル退会
シオリは、そのミキのつぶやきを拾って、日頃思っていたことを口にした。
「私、あの飲みサー、もう退会しようかと思うの」
急に顔を上げたミキは、うつむき加減のシオリを見た後、落胆の表情を見せて目を落とした。シオリのこの発言を引き出してしまったのは自分であることに気づいたのだ。
前にも退会の相談を受け、一応は引き留めた。籍だけ置いたらとも提案した。それは、シオリがいないと、あのまだ未練が残るサークルに一人でいることが寂しいからだった。
そんなミキの気持ちを推し量ってか、シオリは退会を保留にしたまま今日に至っていた。
それなのに、自分が「サークルに、いらんなくなったなぁ」とサークルに居場所がなくなったことを吐露したので、シオリが退会を決断した。そう考えたのだ。
ミキは、残念そうに言葉を返す。
「辞めるんだ」
「うん。あそこ、何かにつけて飲んでいるし。それが目的で集まっているとしか思えない」
「まあ、オフ会状態であることは事実」
「共通の趣味を持つ人が集まって、趣味はそっちのけで活動の大半が飲み会って、変じゃない?」
「それが楽しいんでもあるが。みんなで趣味を肴に語り合うってことが」
それは自分もそうだったと、ミキは自嘲する。
「お酒が楽しいならいいよ。でも、私は楽しくない。そんな時間はもったいない」
「いっそのこと、利き酒同好会にしてしまえと?」
「そんな感じ」
「そっか」
「私、ここが大好き。このお店――AI新書店別館が私の憩いの場所みたいなもの。好きな小説が、しかも新作でいつでも手に入る。読書を満喫できる。ここさえあれば、今のサークルなんか行かなくていい」
「…………」
「ミキはどうする? 無理には勧めないけど」
ミキはしばらく逡巡した後で顔を上げ、決心したような面持ちで答える。
「辞めるよ」
そう言って、ミキは晴れ晴れとした顔を見せた。