79.ミキの援護(2)
セバス君に扉を開けさせ、一度も振り返らずに店の外へ出て行くヒメコの一部始終を見ていたミキとシオリは、顔を見合わせて着席した。
ここはプッと吹き出すところだろうが、ほんのちょっと二人の間に気まずい空気が流れる。
ゆっくり着席したシオリに続いて、ミキが脱力するように長椅子へ腰を下ろし、背もたれに体を預けた。
切り出したのはミキからだ。
「ごめん。気分悪くなること言っちゃったね……」
少し遅れて「ううん」と返すシオリに自分の言動の失敗を痛感したミキは、頭を掻きながら片目をつぶり唇を噛む。
「つい、熱くなっちゃったんだよなぁ……。ここに来る前、サークルでちょっと揉めてさ」
「揉めた? なんで」
「一樹と礼子に満里奈、でわかるかな?」
「ああ……一樹と礼子の間にあの大人しい満里奈が割り込んできたの?」
「いやいや、違う。一樹が満里奈といるところを礼子が見つけちゃってさぁ。それで礼子が逆上したみたい」
「そっち――」
「そう。満里奈って一樹の元カノって噂が立っていたでしょう? それで、なんかよりを戻しているように見えたみたい。それから、礼子が部室にいる満里奈に迫って喧嘩しているところに遭遇したわけ」
「うん」
「実は元カノの噂、真っ赤な嘘。なのに礼子があまりにしつこくて、尋問みたいで見てらんなくて止めに入ったんだ。そしたら、向こうが突っかかってくるからカッとなって」
「その後にこっちで――」
「そう。だって、マサキってシオリと付き合う前に振ったんでしょう? それに新しい彼女――ヒメコだっけ――がいたんでしょう? ここに来たら元カノの件で揉めていたから、つい反射的におんなじことをやらかしたってわけ。延長戦……みたいなもんか」
ミキの意外な一面を見たシオリだが、自分のためにイヤな役回りを演じてくれたことに感謝の念を抱く。
ヘタすると、外でつかみ合いの喧嘩になっていたかも知れない。そんなリスクを顧みず、親友のために援護してくれたのだ。幸い、相手はミキの剣幕に負けて退散したので、もう言いがかりをつけてくることはないだろう。
「でも、ありがとう」
シオリは満面の笑みを浮かべてミキの労をねぎらう。
「お礼を言ってくれて嬉しいけど……正直、穴があったら入りたいよ」
そう言ってミキは苦笑しながらうつむき、しきりに頭を掻いた後、ぽつっと言葉を漏らした。
「サークルに、いらんなくなったなぁ……」