78.ミキの援護
ヒメコは、シオリの目の動きから嘘をついていないか探るため、鋭さを増した目つきになる。少しでも目を横に動かすと嘘をついていると思われそうなので、シオリはヒメコの真っ黒い瞳孔に吸い込まれそうになりつつも視線を動かさない。
「マサキに近づいている女。あんた、知っている?」
「知りません。こないだ、何年ぶりかにお目にかかったのですから、一緒にいる女性のことなんか」
「そう……。見かけたら必ず教えて」
「どうやってですか? 私はあなたの連絡先を知りません」
「ここにちょくちょく来るから、声かけて」
ヒメコは、人差し指でトントンとテーブルを叩く。
「私もよくここに来ますが、あなたにお目にかかったのは今日を入れて二度目ですが」
「何が言いたいの?」
ヒメコが目を剥いたそのとき、鉄扉の開く音がして足音が近づいてきた。これはミキの足音だ。
「お待た…………、誰、この人?」
ミキがヒメコを見てシオリを見て、またヒメコを見た。頼もしいミキの登場で愁眉を開いたシオリは、今にも泣きそうな顔になり、状況を説明する。
「この人、私がマサキ先輩の元カノかって訊きに来ているの。違うって何度も言っても、信じてくれないの。しつこく、訊いてくるの」
ミキはヒメコを見下ろして「ほほう?」と言葉尻を上げて何度も頷く。状況を瞬時に把握したミキは腕組みをし、シオリを困らせている女に向かって反撃に回る。
「あんたさあ、違うって言ってんのに、なんでそんなにしつけえんだよ」
初めて聞くミキの乱暴な言葉にシオリは驚いたが、それはヒメコも同じだった。
「う、嘘ついてるかも知れないじゃない?」
「嘘だあ? 証拠はあんのかよ。ああん?」
「う、嘘じゃないって言うならいいわよ。……でも、それが口から出任せなら、承知しないから――」
「おい、それがしつけえんだよ。……なあ、ダチにあくまで絡んで来るってんなら表に出てもらおうか?」
「――っ!」
ヒメコは両手をテーブルにドンと突いて立ち上がる。しかし、ミキは全く動じない。
シオリを睨み付けたヒメコは、唇を噛んで二人に背を向け、大股で立ち去った。