72/121
72.砕け散る憧れの先輩像
シオリは、目の前にいる彼が、マサキの顔をした別人がしゃべっているように思えた。
憧れの先輩は、もっと堂々としていて格好良かった。
女性だけではなく男性をも惹きつけるオーラがあった。
いつも校内を、男友達や半ば信者と化した女生徒達を引き連れて堂々と歩いていた。
威厳まで備わっていて、教師も一目置くほどだった。
それが今は、まるでチャラ男。あの頃の姿をどこで脱ぎ捨ててしまったのだろう。
女生徒に向かって「綺麗だね」なんて言う人ではなかったし、「どこにでも付いてきてくれた」なんて人を子犬みたいに見る人でもなかった。ましてや、今みたいにヘラヘラ笑うことはしなかった。
冗談でも口にしなかった言葉を軽々しく吐く。
人は、数年でこうも変わるものなのか。
高校時代の憧れの先輩像は、シオリの心の中でガラスが割れる音を立てて粉々に砕け散り、代わりに目の前のチャラ男の姿がねじ込まれた。