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71.先輩との再会

 しばらくして、衝立の向こうで二人のどちらかが席を立った気配がした。シオリが、静かに衝立の横から顔を半分出すと、女性が背中を向けたまま横移動して通路に立ち、スカートを優雅に揺らしながら奥の壁に向かって歩いて行くのが見えた。おそらく、トイレに行ったのだろう。


 と、その時、マサキが体を傾けて斜めに顔を出した。


 ギョッとしたシオリだが、彼も(のぞ)かれていることに驚いたらしく、おおっという顔をしてから作り笑いにしか見えない笑顔を見せた。


 シオリは、ただ単に、誰が席を立ったのかを見たかっただけなのだが、マサキは彼女が自分を気にして(のぞ)いていたと勘違いした様子だ。


 彼は、後ろを振り返って首を伸ばし、女性がトイレに入ったのを確認すると、席を立って足音を立てないようにスルスルッとシオリに近づいてきた。そして、しゃがみながらテーブルに腕組みした両腕を乗せ、その上に顎を乗せた。


 間近に近づいてきたマサキの顔に、シオリは逃げ腰になり、長椅子の上で尻を数センチ奥へ滑らせた。


「シオリちゃん――だよね?」


「えっ――」


 続けて「人違いでしょう」と言うつもりだったが、高校時代から顔が変わっていないシオリは、その言葉を飲み込んで正直に答えることにした。


「ええ……」


「やっぱりね。最初、誰かと思ったよ。ずいぶん、()()になったね」


 綺麗の部分だけ、わざとらしい力が入っていた。


「そうでしょうか……」


 シオリが(とぼ)けても、マサキは意に介さない。


「僕の名前、覚えているよね……って、さっき、ヒメコが言ったっけ」


「あの女の人、ヒメコさんっておっしゃるのですか……」


 我が儘なお姫様にお似合いな名前だと、シオリは腹の中で(わら)う。


「同じゼミの仲間。同い年の単なる知り合いだよ」


「ゼミの仲間が、普通の知り合い扱いなのですか……」


「そうじゃなくって、恋仲じゃないってこと」


「はぁ……」


「久しぶりなのに、元気ないねぇ。あの頃は、『せんぱーい』って、どこにでも付いてきてくれたのに……」


 懐いた子犬みたいに自分を見ていたのだろうかと、シオリは悲しくなった。


「それより、文学少女は苦手ではないのですか? ヒメコさんとここへ何しにいらっしゃているのですか?」


「あ、それ? 今は好きだよ、文学少女……って、取って付けたようにって?」


 マサキは体を揺らし、声を出さずに笑った。

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