69.店員を試す
「私、レアチーズケーキとエスプレッソ」「僕は……梅酒ないの?」
後ろから聞こえてきたマサキの注文に、シオリは首を傾げる。
(お酒なんか置いているはずないじゃない。ここは喫茶店よ)
これに対してセバス君が何と対応するのか耳を傾けていると、
「メニューからお選びください」
つまり、置いていない物を注文するなということだ。
「メニューどこよ?」
「スマホはお持ちでございますか?」
(えっ? 先輩ってまさか手ぶらでここに?)
「あるけど――ほら。……で、どうすりゃいい?」
どう考えても、初めての来店の様子だ。ということは、女の方が先に会員になったのだろう。席はいつもそこらしいから。
セバス君が『お品書き』からメニューを表示できることを説明していたが、マサキは「酒くらい置いとけよ」とボソッと前置きしてから「コーヒー」と曖昧な注文の言葉を発した。
「メニューからお選びください」
そう。コーヒーはカテゴリーの一つで、アメリカン、ブレンドなど様々な種類あるのだ。
「わかったよ。エスプレッソ」
「かしこまりました」
そう言ってセバス君が後ろを振り返って歩き始めると、今度はシオリの前にやって来た。予想もしていなかった彼の行動に、シオリは動揺して腰が浮いた。
「オレンジペコーでしたね? ホットでしょうか?」
シオリが言いかけて遮られた注文をセバス君が覚えていてくれた。ジワッと涙を浮かべて「はい」と頷いたシオリは、セバス君の背中を見ながら手の甲で涙を拭った。
その時、後ろの女がおかしなことを口にした。
「試してどうだった?」