66.来店するはずのない人が店にいる
他に空いている席があるのにわざわざ相席を願うのは、自分に用があるからか、今自分が座っているテーブルがその人のお気に入りの場所だとかのケースくらい。
もし、初対面の相手が自分に用があるのなら、勧誘だろう。
お気に入りの場所なら、人によっては気分を害するだろうから、失礼しましたと他の席に移ればよい。
いずれにしても、離席が得策だと思ったシオリが、腰をちょっと浮かしたところ、女性は口元をわずかに歪めた。
「だから、煙は出ませんって」
と、その時、後ろのトイレのドアが開いて足音が数歩聞こえた後、「あっ、いるじゃん」と男性の声が聞こえてきた。
この声に素速く反応した女性は、立ち上がって声の方を向くと、「おーい」と言って手を大きく振る。
(声デカい……。態度もデカい……。何なのこの女)
シオリの不愉快の度合いを示すメーターが振り切れそうだ。
どうやら、女性は知り合いを見つけた様子だ。
これでは、ますます席を譲った方がいいだろうとシオリも席を立ち、声の方を見た。
すると、やあっと手を上げてこちらの席に近づいてくる男性の姿が見えた。
ゆるふわマッシュの明るめな茶髪で、小麦色の肌の丸顔。ブルー系の開襟シャツに黒いスキニーパンツ。
(えっ!? ……う、嘘!?)
男性の顔から高校時代の悪夢を思い出したシオリは、目眩で倒れそうになる。
(なんでいるの……? ねえ、なんでここにいるの……?)
その男性は――。