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65.初対面の美女
「こ、こんにちは」
シオリは、記憶にある知り合いの顔と照合するも一致するものはなく、ほぼ間違いなく初対面と結論づける。
「前にどこかで――」
「今日の恋愛物、いけてます?」
人が、『お目にかかったことありますか?』と訊こうとしているのに、質問で遮ってくる。シオリは警戒心を一段階引き上げて「いつも通りです」と受け答えする。
「そう。私、恋愛物に目がないので、それは良かった」
シオリは、それより先に言うことがあるだろうと思ったので、ちょっと何か言ってやろうと言葉を選んでいると、女性はバッグからタバコを1本取り出してヒョイと口にくわえた。
「ここは、禁煙――」
「大丈夫、煙出ませんから」
彼女は、くわえたタバコを上下に揺らしながらモゴモゴと答えた。