64.サークルよりもAIが執筆する小説を優先
ほぼサークルの幽霊部員になっているシオリは、AI新書店別館の左奥にあるいつものテーブルで壁を背に向け、新作が出来上がるのを待ちながら天井を見上げていた。ユキと仲良くなってから、この特等席はユキと交互に使っている。
彼女の脳裏には、ミキの顔がボンヤリと映っていて「退会するの?」と寂しそうに問いかけている。それは、1時間前の出来事だった。
「マジで?」
「……うん」
「退会するの?」
「悪いけど……そうしようかな――と」
「籍だけ置いたら?」
「それはみんなに悪いし」
「悪くない悪くない。いつでも戻れるよ」
「あっちが楽しいし、書いているのも忙しいし」
そう。新作の本を読みたいし、小説もぼちぼち書いているし、ユキたちと楽しくお話ししたいし、あれもこれも手を出すほど時間はない。
(まあ、ああ言っちゃったけど、よく考えたら、退会するとミキの顔を潰すことになる……。どうしよう)
時間とお金では割り切れないものが横たわっている。
いっそのこと、ミキも退会するように勧めようかと、天井の一点を見つめて考えていると、視界にセバス君の顔が入ってきた。
ダランとしていたシオリは、大いに慌てて居住まいを正す。
「ご相席、よろしいでしょうか?」
今日の店内は、半分のテーブルが空席だった。着席してからあまり時間が経っていないので、すぐに埋まるはずがない。
ならば、ここで相席を願うのは、さてはユキたちが来たのかと思って「はい」と答えると、彼の後ろから黒のハイネックレースでノースリーブを着たショートボブの女性が、初対面相手にしては和やか過ぎる笑顔で現れた。
どこのモデルさんだろうと思うほどの美人だ。
彼女は、マキシ丈でベージュ色のプリーツフレアスカートを揺らして、「こんにちは」と言いながらシオリの向かいに着席した。