62.友達の輪
「勉強もしながら20作も公開しているなんて、凄いことです。私は今日ユキさんに励まされ、背中を押してくれたおかげで小説を投稿することにしました。そのお返しですが……と言っても月並みな言葉でしかユキさんを励ますことが出来ませんが、頑張ってください。いえ、お互い頑張りましょう」
本好きのシオリとしては、困っている作家さんを見過ごすことは出来ない。そんな思いで声をかけた彼女は、自分の姿にミキを重ねていた。
失恋して本が嫌いになったことを聞いて、何とかしなくちゃと助けてくれたミキのおかげで立ち直り、今の自分があるのだから。
ユキは、励ましの言葉に何やらハッと気づいたような顔になって、すぐに笑顔を取り戻した。
「ありがとうございます。近々私と同じ所でデビューされる作家さんに励まされては、落ち込んだままでいるわけにいきませんね」
元気づけられたユキの嬉しそうな顔を見て、シオリは胸をなで下ろした。
人の役に立ったなんて久しぶり。彼女は、満ち足りた気分になった。
(ついに、デビューかぁ……)
「私のライバルになったりして」
「と、とんでもない」
ユキの冗談とも取れる言葉の真意をユキの目の色で探るシオリは、リップサービスには思えなかった。
話の流れで作家デビューー――もちろんプロではない――が確定してしまったが、シオリは後悔していなかった。
創作活動の一方で、本も読みたいし、勉強もあるし、何かと忙しくなる不安がなきにしもあらずだが、きっと満ち足りた生活を送ることが出来るだろう。
長らく忘れていた宿題を腕まくりして取り組む。そんな気分だった。