6.本棚のない書店
シオリは、入り口の扉の大きさから数坪しかない狭い店内を想像していた。そこには天井近くまである背の高い本棚が2組向かい合っていてぎっしり本が収められていたり、棚の上には落下するのではないかと心配するくらい本が積み上がっていたりして、一番奥にあるレジカウンターでは眠そうな顔をした店主が時折こちらを見て座っていたり。これは、彼女が良く通っていた本屋のイメージなのだが。
ところが、ここにはそういった本屋に付き物の本棚も平台もない、店主もいないのである。
呆れ顔のシオリが店内をぐるりと見渡して脳裏に浮かんだ単語は『喫茶店』。
まず、アイボリー系の4面の壁には、左右と奥に風景画が1枚ずつ合計3枚飾られている。天井がやけに高く、大人が大人を肩車をして腕を上げても手が届かないほどである。入り口の高さからはまるで想像が付かないくらいだ。
座席はと言うと、カタカナのコの字に立てられた衝立に、丸テーブルと二脚の長椅子が囲まれている。それが奥に向かって1列に4つ、コの字の開いた方を列の右側になるようにして、互いがくっつくように並んでいる。これが2列ある。合計8テーブル、最大で十六人が座れる計算だ。向かい合う二人以外、座ったままでは周りの客の顔が衝立で見えない配慮となっている。
これらの座席が収まるくらいだから、店内は広い。
すでに先客が何人かいた。衝立の横から腕や足の一部がはみ出て見えていたり、頭がせり上がって衝立の上にシオリ達を見る目が現れたりしている。
「ここって……本屋よね?」
思わず心の声が漏れるシオリ。ミキは、クスッと笑って背を向けたまま答えない。
――本屋のはずなのに、本棚がない。一冊の本すら置いていない。
どう見ても、ここは喫茶店である。