59.作家側へ誘われる
「どこかの小説投稿サイトで、ご自身の作品を投稿されていますか?」
ついに来てしまった、とシオリは顔が青くなる。真綿で首を締められる気分に堪えられず、白状するのは時間の問題だ。そろそろ年貢の納め時だと観念するしかないのか。
ライトノベルの本を見せびらかし、あらすじを書いたメモを忘れたという発言を加えて、それがきっかけとなって作家ユキとの話が弾んでいたが、心の中ではずっと不安を抱えていた。
――作家である、あるいは作家を目指しているのではなく、単なる読者だとバレたらどうしようと。
初対面なのに短時間でここまで親しく会話した経験は、今までミキとだけだった。
あの時、孤独で寂しかった自分には舞い上がるくらい嬉しくて、この時間を失いたくないという気持ちが強く働いた。
それは、今も同じ。
だから、申し訳ない気持ちで一杯だが、全くの作り話ではない程度に小さな嘘をつく。
「やりたい気持ちはあるのですが、忙しいのと、恥ずかしいのとで……」
ユキを真似た、語尾が消え入るような自信なさげの発言。
実のところ、投稿しようとは高校時代に漠然と考えたことはあったが、結局は実行せず、イヤな思い出とともに記憶の奥底へ沈めていた。
それを当時の古傷と一緒に、今引きずり出したのだ。
(ああ、そんなことを思っていた時期もあったなぁ……。憧れのマサキ先輩に、クラスの好きなあの人に、読んでもらえたらいいなぁと)
決めかねているように見えるシオリへ、ユキは声を一段階引き上げた。
「忙しくても、やりましょうよ! そうやって、良い作品を公開しない人は何人も知っています。埋もれるなんて、もったいないです」
「公開しても、誰も読まないのでは――」
「誰も読まないなんて、自分が決めつけているだけです。作品のせいではありません!」
「でも……私の駄文なんか、投稿してもPVなんか一桁ですよ。0かも知れない――」
「駄文だなんて、謙遜していては前に進めませんよ」
「…………」
「実は、忙しいことよりも、恥ずかしいことの方が大きいのですね? 最初は誰でもそうです。投稿してみれば、そんな気持ちもなくなります。世界が変わります!」
熱くなったユキが、口を押さえて頭を高く上げ、衝立の向こうを見渡し、
「すみません。声がちょっと大きすぎました……」
そういって、口を押さえたまま、目を糸のように細めた。