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52.共通の話題で盛り上がる

 それまでボソボソと語尾が聞き取りにくいしゃべり方をしていたユキが、まともなしゃべり方に急転したので、シオリは目の間にいる彼女が昨日とは別人のように思えて面食らった。今までの極度に人見知りで臆病な彼女は、迫真の演技だったのか。それとも、ライトノベルの本を見て火が付いたのか。


 驚きのあまり、返す言葉が脳内でことごとく消えていくシオリは、このままポカンと口を開けて黙っているわけにもいかず、()()()()()()()()だけを記憶から引き出した。


「四章の途中――です」


 動揺を隠して笑顔を添えて、何とか答えられたシオリに、ユキは「ああ」と言って二、三度(うなず)く。


「なら、復讐に燃えたハーゲンが王国に立ち向かうところは終わっていますね。敵の大群を前に絶望的なほどの少人数で決戦を挑むあの場面を」


 この淀みない言葉と、目を輝かせて生き生きと語るユキに、シオリは彼女の本当の姿を垣間見る。


 同好の仲間を見つけたという嬉しさがユキを衝き動かすのだろう。シオリは、ユキとの間の見えない壁が崩れていくのを感じた。


 物語の感動的な場面を思い浮かべているのか、ユキはどこか遠くを見ているような目になった。シオリはそれを見てすかさず、


「はい。あの場面は鬼気迫るものがありましたね――」


 そう言い終わらないうちにユキが身を乗り出した。動きまでおどおどしたところは皆無だ。


「あれは、作家の真骨頂です。他の作品は読みました?」


 シオリは、例として同じ作家の三冊のタイトルを取り上げた。


「それ、私も読みました。どれも、全巻持っています」


「それは凄いですね」


「ええ、だって――」


 急に、ユキが真顔になる。


「ああなりたい……ですし」


 その言葉に、シオリは確信した。


(やっぱり、作家さんだ)


 長椅子の背もたれに力なく背中を預けたユキを見て、彼女の思いを汲んだシオリは慎重に言葉を選ぶも、どうしてもストレートに()いておきたいことがあり、それを口にした。


「目指している作家さん――ですか?」


「……憧れです」


 ぽつんと返された言葉のボールをシオリがどうやって返そうかと思っていると、またユキが身を乗り出して問いかけてきた。


「あのー……あらすじ書いてきたそうですが、もしかして、小説を投稿――されてます?」


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