51.きっかけ作り
ビニール袋は古書店の物ではなく通常の書店の物であることと、本に透明のブックカバーがかかっているので間違いなく新刊本。シオリは、最近読んだことがある本が一番上に見えたので、ユキに対して急に親近感を覚えた。
ここは、本好きが集まる店。同好の仲間ばかりだ。
しかも、目の前にいるのは――まだ本人の口から聞いていないが――小説投稿サイトの作家さん。出来れば、話をしてみたい。
ユキは、飛び出した本に気づいて、ビニール袋をヒョイと拾い上げて本を中に入れてから再度テーブルの上に置いた。その様子は何も慌てておらず、まずい本を見られたという表情も見せていない。
まだ探し物をしているユキがショルダーバッグの中へ目を落としている最中に、シオリはあることを思いついた。
彼女は、トートバッグを膝の上に乗せて手を突っ込み、たまたま持ち歩いていたライトノベルの本を表紙が上になるようにテーブルの上に置いて、探し物をしている風を装い、バッグの中を手でかき回した。
ようやくスマホを取り出したユキは、顔を上げると、シオリの前に置いてある本に気づいて目を留めた。タイトルと表紙絵をジッと食い入るように確認してから、その熱い視線をシオリの方へ向ける。
ユキの視線がチリチリと感じたシオリは、顔を上げてちょっと笑ってみせる。そうして、トートバッグの中を探していた理由をこじつける。
「あらすじ書いてきたメモを忘れたみたい」
すると、ユキの口元がほころび、今までより大きめの声で言った。
「その本……もう最後まで読みました?」