47.自分のお気に入り席は他の客のお気に入り席でもあった
「今日はそのテーブルで壁向いて座ってんじゃん。いつもの反対向きなんて、めずらー。なんでー?」
周囲を憚らない声が、衝立の後ろを左方向へ移動する。
シオリは、第三者のその言葉で全てを把握した。
なぜ、向かいに座っている女子高生がうつむいたままでいるのか。それは、今自分が座っている席がこの女子高生の定位置だから。知らない相手と相席してまでも、ここのテーブルに愛着があるのだ。
シオリは、他人のお気に入り席を奪ってしまったという罪悪感が湧き起こる。
一方、ユキと呼ばれた向かいの女子高生は、目だけ上げてシオリの視線とぶつかると、直ぐさまシオリの頭上を越えてきた声の方へ見やる。その視線の動きは声の主を獲物のように追い、表情は「場を察してよ」と強く訴えている。
「――っ!」
シオリの左横で足音が途絶え、彼女の視界の左に入った制服姿が前のめりで止まった。2、3秒の沈黙が、やけに長く感じられて息が詰まる。それを破ったのはユキだった。
「カンナ、声でかい」
周囲をはばかるようなユキの小声に対して、カンナは口を手で押さえて目を見開き、辺りを見渡す。
心の中のモヤモヤがパンク状態になったシオリは、作り笑いのような笑顔を浮かべてユキに向かって問いかけた。
「あのー、私……、席……替わりましょうか?」