46.相席の客
全てのテーブルに一人ずつ座っているので、この状況では後から来た客が相席になる。
当然、セバス君はそれを説明しているのだろう。女子高生に向かって何やら話しているが、彼女も承知の上で店内に入ってきたと思われ、軽く頷いていた。
さて、どこに座るのだろうとシオリが彼らの動きを目で追っていると、セバス君が自分の方に向かってやって来るので、衝立から出していた顔を慌てて引っ込めてうつむいた。シオリは、セバス君がこちらに来る途中のテーブルで相席を願って欲しいと祈っていると、執事のズボンが視界の左に入ったので、ぎくりとした。
「ご相席、よろしいでしょうか?」
シオリはワンテンポ遅れて顔を上げると、彼が小首を傾げている。人間なら、さも申し訳なさそうな顔をするだろうが、そういう細かい表情までは出来ないらしい。
彼女は、彼がよりによってなぜこの席を選ぶのだろうと訝しがる。それはおそらく、客である女子高生が希望を告げたのだろう。奥のあの席がいいと言うよりかは、いつもの席がいいと。
なんだか、彼の体が透けて、後ろに「そこは私の席よ」とでも言いたそうな目つきで腕を組んで立っている女子高生の姿が見えるような気がした。
「え……ええ」
断るのが苦手なシオリは、気持ちとは裏腹の返事が口から漏れ出る。セバス君の頼みだから仕方ないとは、後から思いついた理由だ。
そんなシオリの同意を、好意ではなく当然のこととでも思ったのか、セバス君は何も言わずに後ろを振り返り、「どうぞ」と女子高生へ着席を促すと静かに去って行った。
彼の後ろから姿を現した女子高生は、シオリの方ではなくセバス君に視線を送り、彼の背中に無言でヒョイと頭を下げると、肩からショルダーバッグを下ろした。そうして、シオリではなくテーブルに視線を這わせ、尻を椅子の上にソーッと置いた。
前髪パッツンのミディアムカットで、パーマもカラーもないつやつやな黒髪に赤いリボン。正面を向いてくれないので分かりにくいが、瓜実顔でやや神経質そうな雰囲気。華奢な体なのに、さらに縮こまった座り方をするので、弱々しそうに見える。
シオリは、相手が顔を上げないのをいいことに観察を続けていると、後ろのトイレのドアが開く音がして、「あっ、ユキじゃん」と割と大きめの声がしたので、ビクッとなった。