44.遅れてやって来た女子高生
AI新書店別館のあるビルへたどり着いたシオリは、地下へ向かう階段の前で一度立ち止まる。ここに来るのが二度目とはいえ、穴蔵に吸い込まれる感覚には抵抗を感じるのだ。
ふと、来た道を振り返る。すると、例のセーラー服姿の女子高生が足早に近づいてくるのが目に飛び込んだ。
直感がシオリをせき立てた。彼女は、直ぐさま階段を駆け下りる。
無人の通路を駆け抜けて一番奥の鉄扉の前に立ったシオリは、スマホで空席情報に変化がない――お気に入りの席がまだ空いている――ことを確認して安堵しつつ、右の装置から携帯番号を打ち込む。
と、その時、後ろの階段を駆け下りてくる足音が廊下に響いてきた。ビクッとした彼女は、反射的に振り返る。
素足が見えて、紺色のミニスカートが見えて、白いセーラー服と紺色のショルダーバッグが見えて、左肩にかけたバッグの紐をつかむ左手、スマホを持つ右手、顔、そして頭の赤いリボンが見えてきた。
(やっぱり、あの子……)
姿を現したのは、シオリが追い抜いた女子高生だった。
その女子高生は扉の前に立つ人影――シオリを発見するとすぐに目を落とし、ほんの一瞬だが立ち止まると、ゆっくりと踏みしめるように階段を下りきった。
のろい足取りで廊下を歩く彼女は、ずっと目を上げないでいる。もし、通路の途中の部屋に入るのなら、あんなにひどく落胆したような態度は取らない。明らかに、先を越されて肩を落としているのだ。
それを観察していたシオリが後ろめたい気持ちになったと同時に、扉を解錠する金属音が聞こえた。その音に驚いて条件反射的に正面を向くと、ギーッときしむ音がして鉄扉が内開きに開いた。
現れたイケメンのセバス君を間近に見たシオリは、慌てて仰け反った。