42.後から入って相席になりたくない
午後の退屈な授業がようやく終わった。
終わる前にもうテキストやノートや筆記用具を片付けて準備万端のシオリは、チャイムと同時に席を立ち、バイトで急ぐ風を装う。そうして、今日はミキが来ていないサークルの部屋に迷うことなく背を向けて、駆け足で地下鉄の駅を目指す。
経路検索のアプリが勧める最短コースを選択するが、大学から電車を二本乗り継ぐのがもどかしい。しかも、駅間の連絡通路が長くて、本当に最短なのか疑わしく思えてくる。アプリが正直に分単位で積算することで割り出したお勧めルートは、必ずしも人間の時間感覚に合わないものなのだ。
電車内でスマホから店の空席情報をチェックすると、イライラが募る。一人、また一人と着席していくのだ。もちろん、1テーブルに一人ずつ。
(相席なんかイヤ。詰めてくれればいいのに……)
そう思う気持ちもわかるが、セバス君が商売上手だとして、一人で来店した客に対し、予約席でもないのに空いているテーブルを残して相席を巧みに勧め、客を詰め込むことはないだろう。
焦るシオリは、電気街に到着すると、人混みを掻き分けてビルの地下を目指す。
まだ1テーブル空いているので今がチャンスと思いきや、念のためもう一度見ると、全テーブルが埋まった。
急に減速した彼女は、已んぬる哉という表情を路上で見せて、他の通行人より遅い足取りになった。
(どうしよう……。今更ここまで来て、帰る?)
諦めきれないシオリは、画面の再表示を繰り返す。すると、1分後に、幸運かな、思い出のテーブルが空席になった。小躍りしたい気分の彼女は、先を急いだ。