39.自宅でもAIが執筆した作品を堪能する
マジでヤバい本屋を十分堪能したシオリは、48時間独り占めにできる本をスマホから自分の仮想本棚で確認して口元がほころぶ。その様子を見ていたミキもつられて微笑んだ後、腕時計に目を落として、声を立てずに背伸びをする。
「そろそろ、次の場所、行こっか」
「うん」
次は、おしゃれ着を選ぶ約束だ。シオリもミキの真似をして、無言で長めの背伸びをし、一緒に席を立つ。
さすがに長居をした。喉が渇くけど、もうお腹がタポタポ鳴っているから追加注文はしない。ちょっと腕をさするくらい寒くなってきているし。
どおりでこの室内がセバス君、というかサーバー向きになっているんだと、今更ながら気づく。
シオリは会計時に、セバス君の前でどぎまぎする。反則級のイケメンに笑顔を向けられ、釣り銭を渡されて「またのご来店をお待ちしております」なんて言われると、クラッとしてしまいそうだ。
(なんだか、機械に見える瞬間があるけど、こうして接すると人間と変わりない。気持ちまで許してしまいそう……)
店を出てセバス君に見送られるシオリは、後ろを二度振り返った。三度目は鉄扉が閉められた後だったので、寂しさに襲われた。
買い物を終えて自宅に戻ったシオリは、買い物袋を床に置いて、早速スマホからAI新書店別館のホームページを開いた。
ミキから「次行くときは、お店の空席情報を見るといいよ」と言われたので、そのリンクをクリックすると、1テーブル1名ずつ埋まっていた。八人いる計算だ。
「こんな座り方されているときに来店した場合、相席なのかしら。……知らない人と相席はちょっとイヤだなぁ」
またミキを誘おうと心に決めたシオリは、セバス君に書いてもらった本を仮想本棚から引っ張り出して、むさぼるように読んだ。
ハラハラドキドキしたり、腹の底から笑ったり、感極まって涙を浮かべたり。
気がつくと午前0時を回っていた。シオリは、爽やかな読後感を味わい、眠れないままベッドの上でスマホを手に仰向けになった。
(明日も行こう。……あっ、もう今日か)
彼女は、ミキがチャットに現れないので、お誘いのメールを編集した。
(セバス君に会いたいんだろって言われそう。……ミキって、ホント、エスパーなんだから)
フッと笑った彼女は、送信ボタンをタップした。