38.会員限定の理由
会員第一号は誰かについて、シオリの推理はミキの推理と同じだった。
AI新書店別館の関係者が、知人に新サービスを紹介するため、会員に誘う。会員になったら、会員限定のホームページのURLを教える。その知人が「この新サービスは面白い」と思ったら、彼の知人を紹介し、会員になった後でURLを教える。
こうして会員が広がり、今に至る。
「シオリもずいぶん鋭いね」
「これは誰でも思いつくと思うけど。……で、新作の書き手がセバス君しかいないのだから、彼の頭がパンクしないように、ここにいる会員――最大で十六人しか注文出来ないようにしている。他の会員は、満席なら外で行列を作って待つしかない」
「でも、この外でラーメン屋の行列みたいになっているのは、見たことないね。まだ会員は少ないのかもよ」
「これで会員限定にしている理由がわかったわ。会員登録は、この別館にいるセバス君というかアンドロイドというかサーバーでしかできないから、店はここしかない。実質の店長はセバス君だけど、バレるとまずいので非公開」
「店長の話はあくまで推測なので横へ置いといて……会員を紹介制にしている理由は、興味本位の利用者が増えてサービスが重くなるのを防ぐためだという考えは私も同じ。それ以外には、本好きが本好きを呼ぶから、彼らの嗜好、読むときの行動、作品の評価など、有益なデータを得られる利点がある」
「……店長ってどんな人かなぁ。このサービスを作った人? 会って話を聞いてみたい」
「こっちは、このサービスを考えた人が会社の創立者でも従業員でも、あんまり興味ない。面白い本を提供してくれて、毎日をワクワクさせてくれれば、誰でもいいよ。……あっ、その人が黒のタートルネックのシャツ着て、講演会で『出版業界の革新的サービス』なんてプレゼン始めたら、動画で観るかも」
そう言って、ミキは、また空のカップを持ち上げるのだった。
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