36.店長は誰で、本館はどこ?
「もしかして、店長さんでもあるのですか?」
シオリの問いかけに、セバス君は口をつぐんだ。サーバーであることをあっさり白状したにしては、これには回答しないのが不思議。
お客様には言えないお店の秘密にでも触れたのだろうかと心配すると、ミキがフォローした。
「あのねぇ、店長は人間って、この国の法律で決まってんの。アンドロイドが店長やってると、お縄になるよ」
納得したシオリが頷くと、セバス君は、やっと解放されたとばかりに去って行った。後ろ姿を見ていたミキは、右の手のひらを半分のメガホンの形にして口の横に置き、シオリに向かってささやいた。
「実は、ここの店長、今まで誰も見たことがないんだ」
「でも、いるのよね? ここにいなければ、本館とかに」
「その本館、どこにあるか知っている?」
「知らない。今日初めて、ここの存在を知ったし」
「実は、本館についても誰も知らないのさ」
「はあ!?」
大声になったシオリは反射的に手で口を押さえる。それを見たミキは軽く苦笑した。
「でもさあ、驚いたよ。さっき、セバス君が『お客様の小説の注文を受けて、書きながらお飲み物を運ぶ』って暴露しちゃったこと」
「えっ? 知っていたんじゃないの?」
「まさか、そんなことしているって思ってもみなかったから、本人へ訊いたことなかったんだ。サーバーがこのビルのどこかにあると思っていたよ。今、初めて知った、本人がサーバーだったんだって」
「嘘……。ミキは何でも知っていると思っていたのに」
「何でもは無理。とにかく、シオリ、ナイス誘導尋問」
「そんなつもりはなかったけど……、なんか、そうなっちゃった」