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35.注文を受けて新作を書く作家の正体

「あのー」


 シオリの声にセバス君が立ち止まり、「はい」と言って彼女の方へ笑顔を向けた。手に何も持っていないので、客へ飲み物でも運んだ帰りか。


 彼女は、間近に迫る彼の素敵な笑顔にキュンときた。先ほどは、瞬きしないで立っているのが人間味がなくて機械に――サーバーにすらに思えてしまったのだが、こういう温かみのある表情を見せてくれる時は、すっかりアンドロイドであることを忘れてしまう。


「初めて利用させていただきましたが、驚くことばかりです。本も面白くて、凄く楽しいです」


 シオリは素直な気持ちでそう言いながら、心の中には『急に何を言い始めるのだろう……』とセバス君の視点で見ている自分がいる。みるみる顔が火照ってきた彼女は、ミキの視線もあって恥ずかしさが倍加し、身もだえするように体をねじらせ、両手で頬を(あお)ぐ。


 セバス君は一層爽やかな笑顔を見せた。


「ありがとうございます」


 そんな優しい彼の言葉に、シオリはズキュンと心臓を撃ち抜かれた気分になり、左胸に手を当てた。


 しばし無言の彼女を見つめていた彼は、軽く一礼して立ち去ろうとする。もう少し話をしたいが何を言っていいのか迷うシオリは、


「こんなに次から次と新作を書き上げるのは、大変でしょうねぇ」


 と、咄嗟に思いつきの言葉を口にした。


 彼女は主語を抜いてしまっているが、本当は「AIが」のつもりだった。ミキが「大変っていうけど、書いてるのは機械だろ」と茶化すが、顔中の毛穴から湯気が噴き出すシオリは、セバス君に見つめられてミキのツッコミが聞こえていない。


 その時、セバス君が()を置いてから答えた。


「いえ。お客様にお飲み物を運んでいても、大丈夫ですよ」


 何が大丈夫なのか理解できないシオリは、小首を傾げ、「大丈夫って?」と問いかける。



「お客様の小説の注文を受けて、書きながらお飲み物を運ぶことです」



 いとも容易く暴露するセバス君に、シオリは眼球が飛び出るくらい驚愕する。


「えええええっ?? 書いているのは、もしかして、あなたなのですか!?」


「はい。お客様がスマホでご注文なさると、そのオーダーが無線でつながっている私の所に届きます。私が書き上げると、それをお客様の仮想的な本棚へ格納した旨をスマホに返します。同時に何冊も書けますし、その間にお茶とケーキを運ぶことが可能です」


「あ、あ、あの……」


「何でしょうか?」


「あなたは、歩くサーバーなのですか?」


「そうとも言えます。サーバーでもあり、給仕も務めている作家とも言えます」


 シオリは愕然とし、卒倒しかけた。少し前に、彼がサーバーに思えたのだが、その冗談みたいな発想は『事実』だったのだ。


 彼はこのAI新書店別館で、顧客の会員登録をし、お茶やケーキを運ぶだけの店員ではなかった。


 彼自身が小説を書き、それを保管する。つまり、作家もサーバーの役目も一手に引き受けていたのである。

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