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32.人工知能が夢落ちを勧める

 シオリが入力したあらすじは、以下の通り。



「とある高校に、(かける)という男の子の転校生がやってきた。主人公の()()は、彼に一目惚れをする。付き合い始めて、デートも何度か行った。ある日、(かける)に『自宅に遊びに来ないか?』と誘われたので()()が行ってみると、そこは自分の家だった。実は、(かける)は並行世界から来ていて、しかも、(かける)は並行世界の()()が姿を変えたものだったった」



 SFはあまり詳しくないシオリが、主人公の眼前に別の姿をした主人公が並行世界からやってくるという設定なら、意外性もあって面白いのではないかと考えた。「憧れの先輩」とか、このあらすじに入っていない要素は、きっとAIがなんとか盛り込んでつじつまを合わせてくれるはず。例えば、()()の憧れの先輩を登場させて、(かける)と三角関係になるとか。


 シオリは、あらすじにない要素をAIがどう料理するのか楽しく推理しつつ注文を開始したが、すぐにメッセージが表示された。


『かなり無理のある設定です。夢落ちでいいですか?』


 並行世界で女の子が男の子になっているというのが無理なのか。シオリは、(かける)(きよ)()()に変えてみた。同性ならいいだろうと。そして、デートは買い物に変更。しかし――、


『かなり無理のある設定です。夢落ちでいいですか?』


 何が無理なのか理解できないシオリが頭を掻き始めると、ミキが身を乗り出した。


「お困りのようですな」


「困ってない」


「その雰囲気では、拒否られてるでしょ?」


「拒否られてない。夢落ちだって――」


「夢落ち? ……ああ、そっちね」


 どうやら、ミキも経験済みのようだ。


「なんで夢落ちになるの?」


「夢は自由奔放だからね。全てを解決してしまう魔法のオチさ。無理な設定があると、そっちに倒される。なんかヘンだぞ、なら、夢落ちにしてしまえって」


「フーン」


「どれ、どんなあらすじにしたか、見せてみそ」


「やだ」


 シオリは、スマホを両手でつかんで胸の方へ引き寄せ、体をねじる。


「どこか間違っていると思うよ。よく読んでごらん」


「読んだ。AIって、あらすじで指定した通りに書いてくれないの?」


「なんでも言う通りに書けなんて、人間だって無理じゃない?」


「いや、そこは人工知能の力で――」


「無理なものは無理。どうしても自分の書いたあらすじ通りの小説にしたいなら、AIに頼まず、自分で小説書いて自分で投稿サイトへ投稿すればいい」


「……それが出来ないからAIにお任せしたのにぃ」


「ちょっと見せて。なんて書いたか見たいから。笑わないから」


「ホントに?」


 シオリは自分のスマホをミキに渡し、ミキの表情の変化を注意深く観察する。読み終えたミキは、真顔でフッと息を吐き、シオリにスマホを返した。


「このシオリが考えた『並行世界から来た自分と会話する』って、『矛盾する』と判断されたみたいだね。矛盾があると、ここのAIは夢落ちを提案してくるよ。同じ世界に自分が同時に存在するのは、パラドックスだと」


「書いたことあるの?」


「ない。先輩の受け売り」


「なんかずるい……。あーあ、ヤバいことじゃなければ、何でも書けるかと思ったんだけど。後はAIが何とかすると思ったら、理解不能を言い渡された……」


「理解不能ってか、AIの場合、学習したデータにないことは書かないみたい。人工知能も万能じゃないってことさ」


 ミキは、そう言って肩をすくめた。

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