31.筋書きの難しさ
シオリは何か言いたそうな顔を向けるミキを無視して、今度はまだ試していないコースである筋書き指定コースを試してみようと画面を開く。
要素を指定するところは要素指定コースのメニューと同じなので、さっそくいくつかをポンポンと選択する。選んだのは、前回と同じ要素。そうしてから、同じ要素でもシオリ独自のあらすじを読み込ませることで、全く違ったストーリーにしようという考えだ。
あらすじぐらい簡単だと高をくくったシオリだが、結局、テーブルの上にスマホを置き、あらすじの入力欄を見つめたまま腕組みをしてしまった。
「何? あらすじが決まらないとか?」
ミキにめざとく見つかったシオリは、腕組みをやめて画面の上に指を置き、悩んでいないことを態度でアピールしようとする。
「なんで筋書き指定コースだってわかるの?」
「そんなの簡単。だって、最初の指の感じでは要素を選んでいたはずなのに、それからスクロールもせずにジッと一点を見つめているなんて、あらすじ入力欄で悩んでいるしかないじゃない?」
今日のミキは冴えまくりの名推理で、ぐうの音も出ない。でも、悩んでいるのがバレるのは悔しい。
「いやー、頭の中でストーリーを組み立てていたの。そして、今決まった――」
「そんな顔じゃなかったけどね。シオリの、いつもの困ったーって感じで眉間の皺を揉んでいたし」
実に鋭い観察眼の持ち主であるが、見方を変えると、シオリの態度が感情に直結していて読みやすいというのもあり得る。
「そんなことない」
「じゃあ、書いてごらんよ。今すぐ」
降参である。実際、シオリの頭の中は、まっさらな原稿用紙の状態だった。名刑事ミキの前では隠し事が出来そうにないが、多少は抵抗を試みる。
「書こうと思ったけど、人工知能がちゃんと認識してくれるか、心配になってきただけ」
「ホントかなぁ?」
「ホントに」
「自分の文章力が心配だって? 本好きなら、駄目駄目な日本語なんてあり得ないんだけど」
「…………」
「ほら、図星だって顔に書いてある。……でも、大丈夫だよ。ここのAI、よっぽど変な文章でなければ認識して意図を理解してくれるから。安心しなよ」
「ホントに!?」
「やっぱり図星だったんだ」
「謀られた……」
「まあ、あらすじなんて140文字以内で十分。試しに書いてごらん」
ミキに促されたシオリは、ちょっと考えてから軽く頷いて、あらすじの入力を開始した。