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3.地下にある怪しい本屋

 ミキがシオリを連れてやってきたのは、電気街の一角にある雑居ビルの地下へ向かう階段の前。


 最初、いつものおしゃれ着の店まで行く途中にある本屋だろうから、きっと古書店の集まる街に違いないと思っていたが、シオリは「なぜここ?」と予想外の場所に目を丸くして辺りを見渡す。雑踏に向けて口を開けている地下への階段は、外の明るさと比べて異様に暗く感じる。


 勝手知ったるミキは、シオリの心配を置き去りにしてさっさと階段を降りていく。穴蔵に吸い込まれそうでイヤな気分に包まれたシオリは、一歩踏み出して戸惑うも、置いてきぼりを食らうのが怖い子供のようにミキの背中を追った。


 狭くて薄汚れた階段、剥がれた張り紙や重ね貼りした張り紙で汚れた壁、それらを天井から怪しく照らす光量に乏しい電球色の丸形蛍光灯、漂うかび臭い空気。とても一人で降りられる勇気が湧かないシオリは、ミキがいても不安になり、6月の陽気には似合わない寒そうに震える格好で腕を組みながら降りていった。


 長めの階段を降りきると、天井には階段と同じ色の丸形蛍光灯が連なり、奥へ一直線に向かう通路の両側には鉄扉がいくつもあった。そこに貼られている店名や事務所名を表示した小さくて汚れた表札に目をやりながら、途中で引き返したくなる衝動を抑えつつ通路を進み、突き当たりの鉄扉に達した。ここだけ表札がなく、ドアノブも外れていて、鉄扉を照らす蛍光灯が寿命間近で点滅しているので、怪しさ満点である。


 扉の右に、縦3列横4行に配置された0から9までの数値と*と#のボタンがある装置が見える。プッシュ式電話機のダイアルボタンの配置にそっくりで、ここに受話器があれば完全に電話機だ。


 ミキは、慣れた手つきで素速くボタンを押す。0、9から始まり、指が移動して押している回数から察するに、打ち込んでいるのは彼女自身の携帯番号ではないかとシオリが思っていると、装置の左側付近で「カチャッ」と何かが外れるような金属音がした。中から扉の鍵が外されたようだ。


 鍵をかけている本屋なんて初めてである。『隠れ家にしてはこの場所怪しすぎる』とシオリが疑雲に覆われていると、ギィーッと(ちよう)(つがい)がきしむ音を立てながら扉が左奥へ向かって――内開きで――開かれた。ここまで十分怪しい雰囲気まっただ中にいたので、きっと用心棒みたいな強面の男がヌッと顔だけ出して来訪者を睨み付けるのかと思いきや、室内の照明が後光のようになった背の高い男性の体半分がヒョイと右に傾いて現れた。


 明るめの茶髪がゆるふわマッシュで、西洋人のような顔立ち。肌の白さは女性のよう。黒い(そう)(ぼう)は東洋人を思わせるが、もしかしてハーフなのか。パッと見た感じでは20代前半に見える。


 首から下には黒い蝶ネクタイ、純白のシャツ、それにフォーマルのような黒い洋服が見えているが、それらから察するに彼は執事の格好をしているに違いない。

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