29.紺碧の海と紅のガレオン~恋するスカーレット艦長の冒険記~
小説の概要は以下の通り。
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中高一貫の共学校で高校一年生の睦海には、中一から憧れている才色兼備の湖透先輩がいる。天才的な能力を持ち生徒会長を務める先輩は、学校中の憧れの的。廊下で挨拶すると必ず笑顔を返してくれたのだが、最近は無視されるようになった。その原因はわからない。
直接会って聞くわけにもいかず悶々としていると、親友の心湖から「グランド・デクヴェルト」という海洋系のVRMMORPGに誘われた。大航海時代の冒険をVRMMOで楽しむものだが、そこに湖透先輩が地方艦隊編成のために艦長を探しているらしいとわかり、さっそく「スカーレット」というプレーヤー名で参加した。
しかし、先輩のプレーヤー名がわからない。学校中の生徒がRPGに集まって先輩を捜し回るのを恐れてか、生徒会役員にしか公開していないらしい。なのに艦長探しの件が広まったのは、生徒会役員同士の会話を立ち聞きしていたある生徒が広めたからのようだ。
あるとき、ゲームをプレイしていると、リスボンに帰港中に親切にしてくれた「ユキムラ」と名乗るプレーヤーが、アバターはイケメン艦長でも言動から湖透先輩に思えてきた。生徒会関係者しかわからない質問の回答で先輩と確信した睦海は、友達になりたいと伝えると、ユキムラは驚き、「捕まえてごらん」と言い残してリスボンを出港してしまった。
追いかけているうちに、ゲームのベテランらしいイケメンの船長のサルヴァトーレ・ガリバルディ、スティーブ・アイゼン、ガイウス・ユリウス・カエサルが次々と現れて仲間になりたいと申し出た。もちろん、スカーレット――睦海――は快諾した。
ところが、一緒にゲームを進めていると、会話の中で自分のクラスでしか知り得ない情報――例えば、文化祭の出し物で揉めた話――を三人とも知っていることに気づいた。それとなく質問すると、彼らはリアルな名前を名乗らないが、どうもクラスで誰とも接しないぼっちの二人と、片思いの男子のような感じがしてきた。でも、ゲーム内でリアルな名前を聞くわけにはいかない。
そこで、ある日、睦海はオフ会を企画した。きっと誰も来ないだろうと思っていると、三人全員が集合し、やはり想像していた三人と判明した。彼らは、ゲーム内と同じくリアルでも仲良しになった。
その後、四人で手分けして先輩を捜しているうちに、大阪でユキムラに遭遇。そこでスカーレットはユキムラから、長崎を根城にしているヨシツネというプレーヤーが長崎に近づく他のプレーヤーの船団をことごとく壊滅させているという情報を手に入れる。どうやら、彼は、ゲームのパラメータを不正に改造してチート能力を手に入れているらしい。
スカーレットは日本を開国させ、聖剣を手に入れる。
五人は長崎へ向かい、ヨシツネを迎え撃つが、射程距離を改変してスカーレット達の射程範囲外から砲撃するキャロネード砲を前にして大きな損害を受けるも、スカーレットは単身でヨシツネの旗艦に乗り込み、聖剣でヨシツネを倒した。
大阪でスカーレット達が祝杯を挙げていると、やはりユキムラがリアルでは湖透先輩であることが判明する。スカーレットがリアルでは睦海であることを告白すると、先輩は非常に驚き、なぜ急に睦海を無視するようになったのかを弁明し、謝罪した。
それには、二人の悲しい過去があった。実は二人は、不遇な家庭に生まれた血のつながりがない姉妹だったのだ。それぞれが里子に出された過去、その行った先での両家で今ちょうど持ち上がっている難題を知った睦海は……。
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