23.過去の克服
質問の意図がバレたシオリは、「別に」とつぶやいてうつむき、視線を合わせないようにする。ニヒヒと笑ったミキは、シオリの表情を覗き込む仕草をして、「では、教えて進ぜよう」と優越感を多分に含んだトーンで語り始めた。
「VRMMOにしてごらん」
「ヴィーアール……?」
「Virtual Reality Massively Multiplayer Online。仮想現実大規模多人数オンラインって奴だけど、言葉でなんとなく意味はわかるよね?」
言われてみてそんなのもあったなぁと思うものの詳細を知らないシオリは、キョトンとしているとミキにいじられそうなのでうつむいたまま頷いた。詳細は本を読んでいる振りをしてこっそりスマホで調べるとして、要素としてメニューにあった「VRMMO」を選択した。
さて、ジャンルは「恋愛」だが、SFの要素である「VRMMO」を入れるとどうなるのか。シオリには、全く想像が付かなかった。まあ、それも面白いかと思ってこのまま進めることにし、舞台を日本の近未来の高校に設定した。
高校にしたから、「同級生」「文化祭」とかの要素も入れてみた。「ハッピーエンド」も入れた。「いじめ」は指先が画面に触れそうになったが、自分を小馬鹿にした女子達の顔が浮かんできたので指を離した。
でも、「憧れの先輩」は勇気を持ってタップした。マサキ先輩の顔が一瞬浮かんだが、消せることが出来た。
最後は中編にして、一通り設定を終える。これで、ケーキセットの分はおしまい。
こうして期待に胸を膨らませ、画面のタップで注文を終えたタイミングで、ミキが声をかけてきた。
「追加で飲み物頼む?」
待っている間にお茶でも飲みたいなと思っていたシオリは、やはりミキは人の心が読めるエスパーか何かかに思えてきた。
「飲み物だけなら注文してもいいけど……また短編2冊増えるのよね?」
「ここで注文して、じぶん家に帰ってから読んだら?」
「URLが消える――」
「新作執筆の注文は出来なくなるけど、書いてもらった本は読めるよ。旧作の本も買える」
「どうやって?」
「この店のホームページに行って、会員ページへのリンクがあるから、そこからログインすれば『本棚』っていうのがあって、出来上がった本が並んでいる。ってか、説明するより見た方が早い」
ミキはシオリのスマホを指差した。