20.AI作家の実力
シオリに話しかける頃合いを見計らっていたミキが、スマホをスッと机の上に置いた。
「その顔、感動したぁって?」
ミキはそう問いかけてフォークを手に取り、2センチ角のケーキの欠片にそのフォークを突き刺す。シオリは、その隙に手の甲で素速く涙を拭ってから問いに答えた。
「不覚にも――って感じ」
「うん、確かにそれ、不覚の涙だね」
シオリは無言で頷くが、泣き虫と思われたくないので補足する。
「これ、泣かずには読めないよ……」
「わかるよ、シオリの顔を見れば」
「目、赤い? うわー、恥ずかしい……」
「周りから見えていないから大丈夫だよ。それより、なんでこんな感動のドラマが5分以内で書けるのか、って思うでしょう?」
「うん。そこにも感動した。さすが人工知能ね」
「最初はベタな展開でも、最後は感動のラストへ持っていく。憎いよね」
チーズケーキを頬張り目を細めるミキは、カップを持ち上げた。咀嚼してダージリンを飲み干すと、
「人工知能がどういう仕掛けでこういう小説を書き上げるのかわかんないけど、ちゃんとツボを押さえている」
そう言ってカップを置いた彼女は、シオリに笑顔を向け、言葉を継ぐ。
「――そう。なんか、ツボを押さえているってか、読者の心理を調べ上げている。そう思うんだよねぇ」
ミキに倣ってカップを持ち上げたシオリは、
「どうやって?」
そう言いながら、冷えたダージリンで唇を湿らせる。その仕草に目をやるミキは、スマホを指差した。
「こうやって」
「こうって?」
「注文を取って」
ミキの小出しの情報に、シオリは推理を巡らし、ほどなくして結論を得た。
「ああ、なるほど。何を注文しているか」
「飲み物じゃないよ」
「それはわかってる。どういう小説を注文して、どう評価しているか。お客の動向を分析して」
「動向って、鋭いとこ突くね。……おそらくだけど、読むスピードやら、ページの行きつ戻りつまで監視しているような気がする」
「監視?」
「レコメンド機能があるんだけど、これ、結構くすぐられるんだよね。似たような小説をずらずらと並べてくる、お馬鹿なレコメンドじゃない。心をつかまれる率、かなり高いんだ」
ミキは、人差し指を立てた。
「だから、相当読者の行動を記録して分析しているとしか思えない。しかも、個人ごとにね」