2.隠れ家の本屋で喫茶店?
6月のある日、シオリはミキからいつものように買い物に誘われた。最近、おしゃれ着に凝り始めたミキが、野暮ったい服を羽織っているシオリのセンスを何とかしようと連れ出すことが多く、今日もそれが目的の誘いだった。一方のシオリは、親友に気に入られようと彼女なりに頑張ってはいるが、まだまだ駆け出しの域を出ていないので今日は頑張ってみようと乗り気である。
ただ、今回の場合、ミキが「その前に連れて行きたいところがある」と言っていて、どこに連れて行くのかを訊いても「お楽しみに」と悪戯っぽい笑顔ではぐらかすのが気になって仕方なかった。
さて、約束の時間となり、シオリは雨上がりの天気が気持ちよくてウキウキする気分で待ち合わせ場所に到着すると、フロントポケットのオールインワン姿のミキがいて、ミディアムヘアを掻き上げた後で手を振り、妙にニヤニヤしている。
一方、ショートボブのシオリは、Tシャツの袖口をロールアップし、デニムで目一杯お洒落したつもりだが、ミキのコーデには敗北感を抱いていた。
お互いに手を振りながら、シオリは「お待たせー」と近づき、「お楽しみって何?」と続けようとした途端、ミキが白い歯を見せて挨拶もそこそこに切り出した。
「ねえ、シオリ。マジでヤバい本屋が出来たよ。行ってみる?」
「ヤバい本屋なら行かない」
「たぶん、違うこと考えている気がする」
「売ってる本のことでしょう? ミキが勧めたBL本よりヤバいとか?」
「そっちか……。じゃなくって、凄いサービスをしてくれる本屋」
「そのヤバい? なら、読んでいると肩と首をマッサージしてくれる」
「あー、もうちょい下、そこそこ、そこきく――って集中できないだろ!」
「足湯に入れる」
「うー、気持ちいい――って、違あああああう!」
「じゃあ、何?」
「隠れ家みたいな本屋」
「それがヤバい? ……まあ、ヤバいこともあるか」
「お茶が飲める」
「なーんだ、喫茶店併設? そんな本屋、すでにあるわよ」
「ちっちっちっ、本が出来るまでの間にコーヒーが飲める」
「なら、印刷所に併設した喫茶店?」
「惜しい! もっと凄いから。百聞は一見にしかず。まずは、レッツゴー!」
「ちゃんと教えなさいよ」
「隠れ家みたいな本屋で本が出来るまでの間にコーヒーが飲める」
「それ、さっき言った2つをつなげただけ」
「行きゃわかるって」
「――って、背中を押さないの!」