19.堪えきれずに落とした涙
シオリがフォークで小さくカットして食べていたチーズケーキの横に、フォークが置かれた。紅茶が冷えてきた。
スマホの画面でページをめくる動き以外、体が動かなくなる。ずっと上下に動いていた眼球が止まり、涙が浮かんで今にも溢れそうになる。
読書をしながら時折そんなシオリの様子を窺っていたミキは、AIがその場で執筆した小説へののめり込みぶりが想定を越えているのを見て、からかう言葉を飲み込んだ。
そんなミキに見つめられていることを気付かないシオリは、鼻をすすり、続きを読み始めるも、胸にこみ上げてくるものを何度も感じて視界が滲んでいく。
なぜ、ミクの手紙が宛名人不明で戻ってきたのか?
なぜ、巧がやつれていたのか?
どうして、彼は彼女にあんな態度を取ったのか?
巧の家庭の事情を知れば知るほど、読み手もミクと同じ気持ちになっていく。
巧みを心の痛手から救おうとするミクのように、自分も手を差し伸べたくなる。
徐々にミクへ心を開いていく巧。
そして、桜坂でのラストシーン。ミクの告白に、巧の答えは……。
読み終えたシオリは、唇が感動で震え、頬を流れる涙を拭わなかった。