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121.サービスの目的

 今日もシオリは、ボディーガード役のミキと一緒にAI新書店別館に入り浸る。


 ミキのバイトのシフトが入っていない時間帯を狙って入店するため、シオリは一人で通い詰めていた以前よりも滞在時間が短くなってしまうのがちょっぴり心残り。


 あれから一度もマサキの顔を見ない―それどころか、ヒメコもナナミも現れない――ので、そろそろ一人で来店してもいいのではと思うのだが、それを口に出すとミキに断固拒否される。


(本当は、一緒にいたいんだ)


 シオリは、スマホで本を読むミキの顔を見ながら彼女の心中を察し、口元がほころぶ。


「今度の超大作に備え、ここで新作をたくさん読むんだ」


「はいはい。早く第一作目を公開してね」


「わかってるって」



 あの一連の騒動から後はサーバーのトラブルは何もなく、連日快適なサービスを享受できて、出来たて――というより、書きたて――ほやほやの新作をむさぼるように読んでご満悦な二人であった。


 シオリは、元気そうな――と言っても飲み物等を運ぶとき以外はマネキンのように動かないセバス君を見やる。あの頭の中で、膨大な小説が並行処理で書き上がっているのかと思うと、ただただ驚嘆する。



 シオリは思いを巡らす。


 ――こんな便利な本屋が増えていったら、世の中はどうなるのだろう。


 普段から想定される読者向けに出版される本で溢れているところに、人工知能が一人一人の好みに合うように本を書いていったら、それこそ膨大な本が生まれていく。



 それは、嗜好の多様化に合ったサービスなのだろうか?


 AI新書店別館は、それを狙っているのだろうか?


 人工知能が本を書いて出版するという新サービスを開拓するため、コアな読者を会員制で募っているのだろうか?


 そのサービスの行き着くところは? 目指している世界、思い描いている世界は何か?



(誰に聞いたらいいのだろう?)


 ミキが答えるにしては店舗側の考えだから、セバス君がいいのだろうか?


()いてみようかしら)


 シオリは衝立から顔を出し、手を上げてセバス君を呼んだ。彼はゆっくりとやってきて「ご注文をお伺いします」と言った。


「あのー、このお店のことなんですが……一つ()いていいでしょうか?」


 セバス君の体が固まった。これは、よくない兆候だ。きっと、何かまずいことを()かれると警戒しているのだろう。


 ミキが顔を上げて耳をそばだてているので、シオリは言葉を選択し直す。


「お店のことと言うよりかは――」


(いや、結局、お店の目的に触れざるを得ない。どうしよう……)


 適切な言葉が思い浮かばずに顔が()()ってきてグズグズしていると、


「お店に関係ないことでお答えできる範囲でしたら」


 やはりそう来たか、と彼女は思うも、言葉を続ける。


「実は、こうやって新作の本をたくさん書いてくれるのは、なぜなのでしょう?」


「それは、ご注文いただくからです」


「それはそうなんですが……」


 はぐらかし始めたと言うことは、やはりまずいことを()いているのかも知れない。


「このサービス――人工知能が新作を書き上げるサービスは、この先どうなるのでしょう?」


「読者がいらっしゃる限り、廃れることはありません」


(ダメだ。聞きたい答えを誘導できない)


「なら、なぜ会員以外にサービスを公開しないのでしょう? この先もそうなのですか?」


 すると、セバス君がニッコリ笑った。


「それは――」




[後編に続く]


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