117.功労者に感謝の言葉なし
客を一人ずつ送り出すセバス君の態度は、通常営業の時と何も変わらなかった。4種類の挨拶を客ごとにランダムに口にして、軽く会釈をする。マニュアル通りの動きをプログラムされているとしか思えないその仕草は、特定の客に愛想の良い振る舞いをしないための意図的なものなのか。
でも、倒れていたときに上を向いて目を開けていたし、自分達が電源のケーブルを抜いていることをきっと見ていたはず。見ていれば、感謝の言葉が一つくらいあってもよさそうだ。
なので、シオリは、セバス君が自分達四人には何らかの感謝の意を表明してくれるのではないかと期待していた。
客を前にして言いにくいかも知れないので、一番最後に店を退出することにしたシオリは、ドキドキしながら順番を待つ。
ところが、ユキが退出してもカンナが退出しても他の客と同じ挨拶だけで、何一言言葉を付け加えることはなかった。
それは、ミキに対しても同じ。ちょっと拍子抜けしたような顔でセバス君へ振り返ったミキは、セバス君が閉ざす鉄扉の向こうへ消えた。
最後にシオリだ。
「またのご来店をお待ちしております」
それはユキにも言った言葉だ。シオリは、部屋から廊下へ足を踏み出したときにセバス君へ振り返って立ち止まった。
表情一つ変えないセバス君は、黙ってシオリを見つめている。
(きっと、攻撃を受けて覚えていないのね……)
シオリはそのように推測し、ねぎらいの言葉一つもらえずガッカリする自分を慰めた。