106.施錠されたはずの扉が開く
セバス君が倒れ、厨房の人が倒れた。片やアンドロイドで、片や人間だとして、人間まで倒れるのは理解に苦しむ。
腕を組んだミキが、顎に右手を当てて推理を披露する。
「うーん……。サーバーが重くなって、突然、店の人がバタバタと二人とも倒れた。……ってことは、厨房の人は人間じゃないな。アンドロイドと考える方が自然だよ」
客達の中からホーッという声が上がった。厨房の方にいるのは人間だと思っていた客もいたのだろう。
ミキの言葉にカンナは首を傾げた。
「じゃあ、なんで重くなると倒れるんだろう?」
彼女の疑問に対して、客達は一斉にうんうんと頷く。ちなみに、カンナも――もちろん、ユキも――セバス君がサーバーであることを知らない。
シオリは気が気でない。なぜなら、この話を突き詰めていくと、セバス君がサーバーであることがバレかねないからだ。
それはミキも気づいたようで、どうやって話を軌道修正しようかと顔に困惑の色が滲み出てきた。
「それはですねぇ……、ええとですねぇ……。えっと、みなさん、三日前と今日とはサーバーの重さに違いがありますか?」
客達が顔を見合わせていると、カンナが「それは――」と言って手を上げた。
「日に日に重くなっていった、って感じですね」
すると、一人の中年女性が「今日は特にひどいの」と付け加えた。
ミキが長考に入る。
彼女がここで思いついた理由は、ここではなくどこかにあるサーバーが重くなると、アンドロイドを制御している何かの処理が遅くなり、二人が倒れたというものだ。これなら、セバス君イコールサーバーという疑いがかけられないはず。
「うん。なんとなくわかってきた。どんどん重くなって、ついに倒れた。ということは――」
ミキが、作り上げた理由を言おうとした途端、扉がギーッと重い音を立てて店内に向かって押し開かれた。
あり得ないことが起きている。
開くのはいつも、扉のこちら側からセバス君が解錠した後のはずだ。
なのに、誰かが勝手に開けて入ってくる。
全員が固唾を呑んで成り行きを見守っていると、店内に姿を現したのはユキだった。