104.アンドロイド店員が倒れた
シオリはカンナの登場に喜んだのも束の間、体調不良のユキが心配になり、カンナに手を振り返すも微妙に力がなく、表情も硬かった。
ユキは、マサキが言ったことを真に受けてシオリのことをまだ怒っているのだろうか。体調不良は、シオリに会いたくない口実なのだろうか。
シオリが気を揉んでいると、カンナはまだ手を小さく振りながらシオリに近づいてきた。
「お店ではお久しぶりですね。復帰おめでとうございます」
カンナの様子から察するに、ユキからマサキの発言を聞いていないようだ。
ホッとしたシオリが「ありがとう」と笑顔を割り増しにして感謝の言葉を返すと、ミキが「ねえ」と横から割り込んだ。
「ユキちゃんは?」
その問いかけで背筋に冷たい物が走ったシオリは、鼓動が高まる。
「ユキですか? この後、来ますよ。実は、三日前からユキもミキさんたちも来なくなっちゃって、この店来るの、毎日うちだけなんで、寂しいからユキに『今日来る?』って誘ったら、『久しぶりだから行く』って。……でも、なんか元気なくて」
「元気ない?」
「ええ、三日前から塞ぎ込んじゃって。聞いたら『家庭教師と揉めてるのが原因』とかで」
「揉めてる?」
ミキは眉をひそめ、シオリのこわばった顔を一瞥した後でカンナの方へ向き直った。
「なんで?」
「詳しくは教えてくれないんですが……。来たら訊きましょうか?」
「もし訊けるならでいいよ。無理にとは言わないから。……ところで、三日前から毎日ここに来てるって言ったよね?」
「はい」
「じゃあ、三日前から重いのは知ってるよね?」
「重いって?」
「この店の小説がなかなか出来上がらないってこと」
「え? ミキさん、店に来てないのになんで知ってるんですか? ……ああ、トップページが重いから?」
「いや、そこのお客さんから聞いたんだけど」
「そうなんですよ。めっちゃ重くて、あり得ないくらい書き上がるまで時間がかかるんです。何があったんですかねぇ? 混雑にしては――」
ドサッ!
突然、扉付近で何かが倒れたような重い音がした。
みんなが音の方を向くと、そこにいつも立っているはずのセバス君の姿が見えない。
ミキとカンナが音のした方へ駆けていく。シオリも後を追いかける。
そこで三人が見たものは、目を開けて床に倒れているセバス君だった。