1.本好きの二人
[登場人物]
シオリ……本好きの大学一年生
ミキ………シオリと同学年の親友。乱読家
セバス君……AI新書店別館のイケメン店員のあだ名。アンドロイドだが、実名は誰も知らない
ユキ………投稿サイトで小説を投稿している高校三年生
カンナ……ユキと同学年の親友。同じく小説を投稿している
マサキ……シオリが高校時代に憧れていた先輩
ヒメコ……マサキの彼女
ナナミ……マサキの彼女
大学一年生のシオリは、本を読み始めるとそれに没入してしまい、周りの音がほとんど聞こえなくなってしまうという悪い癖がある。道を歩いているときも、歩きスマホならぬ歩き読書みたいなものまで習慣付いているから、とても危険だ。
そんな彼女だが、高校二年のときに本から一度遠ざかったことがある。
憧れのマサキ先輩に「文学少女は苦手なんだよな」と言われた。好意を寄せていたクラスの男子に「本の虫かよ」と呆れられた。傷心したシオリは、同級生の女子達から慰められるどころか「本と二股かけるから嫌われるのよ」と揶揄されて冷笑を浴びた。
それが原因で、これまで足繁く通っていた本屋にも図書館にも近づかなくなった。立ち寄っているところを誰かに見られた途端、指を差されて嘲笑されるのがオチで、とても堪えられなかったのだ。
シオリの勉強部屋の書棚から抜かれた我が友のような本たちは、思い出の品とともに大きめの段ボール箱数箱に詰め込まれて押し入れを占領した。
こうして、あれだけ好きだった本から離れた彼女だが、さすがに人付き合いまで遠ざけるようなことはしなかった。努めて他人と共通の話題を探し求め、それまでほとんど観なかったテレビ番組や映画へ目を向ける。
大学に入ってもシオリは孤立せず、新たな友人を求めて文化系のサークルへ参加した。そこで、ドラマとかアイドルの話題が大好きな同い年のミキと知り合った。
内気なシオリと活発なミキは、性格がまるで対照的。でも、共通の趣味で盛り上がれば、そんなことは関係ない。同じ年齢であるから、ありがちな上下関係の気兼ねが不要。なので、顔を合わせれば、挨拶代わりに趣味の話題が口を衝いて出る。
ある日、ミキがシオリに高校時代の思い出話を語り始めた。それがきっかけで楽しかった出来事を互いに披露しあっていると、ふとミキが「こんなこともあった」とイヤな思い出を口にした。それが呼び水となって、シオリもつい、「大の本好きが露呈してイヤな思いをした過去」をミキに語り始めた。同情を得たいから子細を語り、最後は肩を落として「今でも心に傷を負っている」と結んだ。
すると、ミキが俄然やる気モードでセラピーに乗り出した。悩める本好きを見捨てるわけにはいかないと。
なぜなら、彼女は自らを活字中毒者と名乗るほどの乱読家だったのである。
この時から、二人はドラマもアイドルもそっちのけに本の話題で盛り上がるようになり、共通の話題でつながる友達から、何でも打ち明けられる親友になった。
過去に公式コンテストの締め切りに追われて急いで書いた物を、今回じっくりと一から書き直しました。ストーリーも一部変えています。