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捨て猫勇者を育てよう ~教師に転職した凄腕の魔王ハンター、Sランクの教え子たちにすごく懐かれる~  作者: いかぽん
第3部/第2章

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第97話

「お、おーい、イリスさん……?」


 俺がイリスに呼びかけると、我が天使はキッと俺を睨みつけてきた。


「先生は黙っていてください! 先生はこういうときに優しすぎます! こういうやつらは、一度痛い目に遭わせてやらないと分からないんです!」


「あ、はい、すいません」


 俺はイリスに謝りつつ引っ込んだ。

 あれー?


 とにかくイリスは怒っていた。

 ひと気のない路地裏で闘気を全開にして、二人の警邏の格好をした暴漢モドキたちを睨みつけている。


 だが暴漢モドキたちは、闘気に対してあまりにも鈍感だった。


 大男はへらへらと笑いつつ、メイスを手にパシパシと打ち付けながら、目の前にいる小柄なイリスを威圧的に見下ろす。


「くくくっ……なんだ嬢ちゃん、俺を痛い目に遭わせるって言ったのか? あー、怖い怖い。ひょっとして、勇者学院でお勉強してる勇者の卵かなぁ?」


 さらにその横に、小男が並びながら言う。


「兄貴ぃ、こりゃいけませんや。公務執行妨害に加えて暴行未遂ですぜ。捕まえてみっちり取り調べをしねぇと。それにどんな凶器を持ってるかも分かりやせん、服を脱がせて持ち物検査もしねぇとです」


「まったくだ。へへっ……ガキのくせにそそる体しやがって。淫行条例にも違反だなこりゃあ」


 大男はイリスの体つきを見て、べろりと舌なめずりをする。

 清々しいぐらいの下劣ぶりだった。


 それに対し、イリスが向けるのは極寒の据わり目だ。

 男たちを睨みつけたまま、イリスはぽつりとつぶやく。


「──【大地の剛力(アースマイト)】」


 イリスが行使した魔法の輝きが、彼女自身へと宿る。

 そしてイリスはつかつかと、大男の前まで歩いていった。


「へへへっ……学生レベルでプロに勝てると勘違いしちまったか? ──さあ、逮捕だ!」


 大男がメイスを持っていないほうの左手を伸ばし、イリスの胸倉をつかみにかかる。


 だがそれを──パシッ。

 イリスが無言で右手を差し出して、その手を迎撃、つかみ返した。


 大男の大きな左手とイリスの小さな右手とで、互いの手をガッチリと握り合った形になった。


「おっ、力比べか? いいぜぇ。おじさんはな、力比べがちょっと得意なんだ。──ふんっ!」


 大男の気合の声とともに、その太い左腕の筋肉が盛り上がる。

 わずかだが、左腕に闘気もまとった。


「がははははっ、さぁどうだ、俺様の本気で押し込んだら──って、あれ? え、ありゃ、何だこれ」


 大男は左腕に力を込め、イリスを地面に(ひざまず)かせるつもりだったようだ。


 しかしイリスの華奢な手がびくとも動かないので、戸惑っている様子だ。


 そして一方のイリス。

 極寒の瞳を大男に向けたまま、言った。


「こんな程度で力自慢? 先生どころか、リオにも遠く及ばないじゃない」


「は……? ──なぁっ!?」


 イリスはさらに左手を大男の腹に当てると、そのまま男の巨体を持ち上げにかかる。

 大男の足が地面から離れ、巨体が高々と宙に浮かび上がった。


 そうしてできあがったのは、月下の路地裏で小柄な少女が大男の巨体を頭上に軽々と持ち上げているという、とてもシュールな光景だった。


「はあっ……!? ちょっ、な、何が起こってやがる……!? お、下ろせ、クソがっ!」


「あ、兄貴ぃっ! このガキ、どんな魔法を使いやがっ──」


 宙に持ち上げられた大男を見て、小男が慌てて腰の武器に手を伸ばし、動こうとした。


 だがその動きが、びくりと止まる。

 小男の懐に潜り込んだリオが、手にした剣の柄を小男の首元にあてていたのだ。


 リオもまた、いつもの天真爛漫な笑顔ではなく、冷たく研ぎ澄ませた瞳を小男に向ける。


「おっさんとイリスの勝負だろ。ここでおとなしく見てろ」


「くっ……こ、このガキ……いつの間に……!」


 小男はそれで動けなくなった。

 リオがその気になれば、剣の柄でいつでも小男の顎を撃ち上げられる体勢だ。


 そして大男のほうはというと、イリスに持ち上げられた状態でギャーギャーと喚いていた。


「お、下ろせ……! 下ろせっつってんだろこのクソガキが!」


 対してイリスは、冷たい声で答える。


「ふぅん、下ろしていいんだ。──分かった」


 そう言って、イリスは大男を地面に向かってぶんと振り下ろした。


「えっ……!? ちょっ、待っ──ぎゃあああああっ!」


 ──ずぅん!


 地鳴りのような音とともに、大男の巨体が路地裏の地面に叩きつけられる。


 それで大男は目を回し、ピヨピヨ状態になった。

 そこに──


「……先生を踏みつけにしたんだもん。自分だって踏まれても、文句は言えないよね」


 絶対零度の瞳をしたイリスが、靴を履いたその足を、男の顔めがけて踏み下ろそうとして──


「ちょっと待った! ストップストッープ! さすがに待てイリス!」


 俺はイリスを止めに入った。

 その華奢な体を羽交い絞めにして、引きずって大男から引き離す。


「やりすぎだ! ちょっと落ち着けイリス!」


「は、放してください先生! あいつは先生の顔を踏みつけにしたんです! 同じ目に遭わせてやらないといけないんです!」


「待て待て! 踏まれたのは俺の勇者カードであって、俺じゃないだろ!」


「一緒です! 同罪です! ううんむしろ、こんなやつがカードであろうと先生を踏みつけにするなんて、まったく釣り合いません! 万死に値します!」


「言ってることがめちゃくちゃですよイリスさん!?」


「めちゃくちゃじゃありません! 先生の肖像とこんな虫けらの本体だったら、先生の肖像のほうが百万倍大事なのは自明の理、この世の真理です!」


 ああもう、ツッコミが追いつかんわ!


 ていうかイリス、【大地の剛力(アースマイト)】がかかっているせいで力が強い。


 そのパワーでジタバタ暴れるもんだから、俺の力をもってすら取り押さえるのに苦労してしまう。


 そんな中、羽交い絞めから抜け出されそうになったので、俺は慌ててイリスを背後から抱きとめるようにして確保する。


 すると──


「ふひゃんっ……!?」


 イリスはびくーんと跳ね上がって、それから突然大人しくなった。

 おや……?


 そして──もにゅ、もにゅ。


 俺の手のひらに、なんだか大きくてやわらかくて弾力のある、とても豊かな感触が伝わってきた。

 あっ(察し)


「んっ……! せ、先生ぇ……!」


 何か妙に色っぽい声が聞こえてきて、俺は慌ててイリスから離れた。


 俺が離れても、はぁはぁと熱っぽく吐息しているイリス。

 俺はステイ、ステイと我が天使に言い聞かせる。


「と、とにかく落ち着け、イリス。行き過ぎた暴力は良くないぞ」


「はい……」


 イリスは頬を染め、ぽーっとした顔で俺を見つめてくる。


 その陶酔したような表情を見ていると何だかいけない気持ちになってきたので、俺はイリスから全力で視線を逸らした。


 なお、今のはまぎれもない事故である。

 断じて故意ではない、異論は認めない。


 ともあれ、そうこうしているうちに大男がピヨピヨ状態から回復した。

 同時にリオが小男を解放してやると──


「「──お、覚えてやがれ!」」


 二人の警邏姿の男は、慌てて逃げ出していった。

 ……うーん、何だったんだあいつら。


 ていうか人手不足か知らんけど、あんなやつらまで警邏として雇うなよと、この街の役所にクレームを付けにいきたい。


 それにしても──


 俺は自分の勇者カードを拾って回収しつつ、一人おとなしくしていたメイファのもとへと行く。


「イリスのやつ、何をあんなに怒ってたんだ? なぁメイファ、何か心当たりあるか?」


 俺がそう聞くと、メイファは俺の顔をじーっと見つめてから、一つ大きくため息をついた。

 それから首をふるふると横に振って言う。


「……ううん、あれは普通。……イリスは、ボクやリオより一瞬だけプッツンするのが早かったけど、先にキレたのが温厚なイリスで良かった。……ボクが先だったら、あいつは今頃【炎の矢(ファイアボルト)】で全身大やけどだった」


 え、メイファさん……?


「いや、嘘だろ?」


「……嘘じゃない。……【不死鳥の矢(フェニックスアロー)】で焼き尽くさないのが、せめてもの自制。……イリスの言う通りだよ。お兄さんは、お兄さんが侮辱されることに対して、寛容すぎる。……あんなの、許せるわけない」


 行動に出るのが一歩遅れたというだけで、実はメイファも怒っていたようだ。


 うーん……。

 困った、うちの子たちの考え方が物騒すぎる。


 あとでちゃんと言って聞かせないとな。

 強い力を持つ勇者が、自分の感情に任せて力を振るうのはすごく危ないんだぞ。


 が、まあ今はそれも置いといて。


 今、最も重要な問題は、そんな俺たちの様子をぽかーんとした顔で見ている少女──ウルのことだ。


「す、すごいっす……これが、勇者の力……」


 ぺたんと地べたに座り込んでいるウル。

 俺はその前まで歩み寄って、少女に向かって手を差し伸べる。


「大丈夫か?」


「は、はいっす……。あ、でも……」


 ウルは俺の手を取って立ち上がろうとして、自分の身なりを気にする仕草を見せた。


 あちこち破けたウルの衣服は、彼女が年頃の少女ということもあり、確かに気になる。


 俺はまずウルを立たせてから、自分の上着を脱いで彼女に掛けてやる。

 大きさ的に少しぶかぶかだが、体を隠すのにはむしろ都合がいいだろう。


 ウルは俺が掛けてやった上着で恥ずかしそうに身を隠しつつ、少し頬を染める。


 俺はウルを安心させるため、なるべく優しい声で伝えた。


「ウルが狼人間(ワーウルフ)だからって、それだけで退治したりはしないよ。よかったらだけど──話、聞かせてもらってもいいか?」


 俺がそう聞くと、少女はこくりとうなずいた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 再起不能まで・・・はだめかw [一言] カ●ハメ破は出さんのかw
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