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捨て猫勇者を育てよう ~教師に転職した凄腕の魔王ハンター、Sランクの教え子たちにすごく懐かれる~  作者: いかぽん
第3部/第1章

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第91話

 俺とリオ、イリス、メイファの三人は応接室に通されると、ソファーに横一列に腰掛けさせられ、紅茶とケーキで歓迎されていた。


 あまりの唐突の話に犯罪性すら感じ、紅茶やケーキに毒でも入っているんじゃないかと疑ったが、魔法で調べてみたところそんなこともないようだ。


「なぁ兄ちゃん……なんでオレたちこんなことになってるの……?」


「いや、俺にもわからん……」


「たしか私たち、新しい武器と防具を探しにきていたような……」


「……でも、ケーキはおいしい。……悪い気はしない」


 四人でぱくぱくとケーキをつまみ、お茶を堪能する。

 結構いいケーキと茶葉だよな、これ……。


 そうしてしばらく待っていると、やがてリゼルが数人の店員とともに応接室へと入ってきた。


「お待たせしてごめんなさい。早速だけど、三人の採寸と魔導撮影機での写真撮影をさせてちょうだい。──さ、あなたたち。このお嬢様たちを撮影室へ」


 リゼルがそう言うと、リオたち三人はまたあれよあれよと部屋の外に連れ出されてしまった。


 一瞬だけ教え子たちの身の安全を危惧したが、考えてみればリオたちはリゼルが連れていたボディガードなんぞよりもよっぽど強いわけで、最悪のケースでも問題はないだろうと判断する。


 そうして応接室には、俺とリゼルの二人だけとなった。

 リゼルは俺の対面のソファーに腰掛けると、俺に向かってこう切り出してくる。


「あなた、どうやら【目利き】ができるようね。──率直な意見を聞きたいのだけど、うちの商品、あなたの目にはどう映ったかしら?」


 他に誰もいない、俺とエルフの少女の二人だけの空間。

 こんな話をするからには、余人には聞かれたくないということか。


 ならば──と思い、俺は言われた通り、率直に答える。


「品揃えとビジュアルデザインの良さに関しては、お世辞は言ってませんよ、リゼルオーナー。そこは本当に感心しました」


「ふぅん。──つまり武具としての品質に関しては、評価はできないってことね」


「いえ、厳密には何点か、それなりに高品質の武具もあるとは思いましたけど。ただ値段に見合っているかというと、評価は厳しくなりますね」


「やっぱりそう。【目利き】ができる人は、みんなそう言うのね」


 そう言ってリゼルは、席から立ち上がる。

 そして部屋の隅まで歩いて、そこにあった観葉植物の葉っぱを弄り始める。


 それからリゼルは、少し沈んだ声でこんなことを言った。


「武具は戦闘に役に立つかどうかがすべて、見た目のデザインなんて邪道──そういう考えも、勇者が自分たちの命を預ける道具なんだと思えば分かりはするけれどね。でも実際には【目利き】ができる勇者なんてごく一部。ほとんどの勇者は、うちの商品を喜んで買っていくわ。……結局のところ、ちょっとやそっと中身が良くたって、商品は売れやしないんだから」


 そのエルフの職人の声には、何か鬱屈した感情が乗っているように思えた。


 そしてリゼルは落ちつかない様子で戻ってきてソファーに座り直すと、俺に儚げな笑顔を向けてこう続けた。


「あなたが『それなりの高品質』って評価した武具ね、きっと私が作ったものよ。そう評価してもらえたのは、素直に嬉しい。それ以外のものは私の弟子が作ったものね。──でもね、私は武具の見た目づくりや売り方も含めて、職人としての実力だって思っているの。同業者は私の考えを認めてくれないし、私の悪評ばかり流すけれどね。あーあ、僻みって嫌だわ」


「あ、あの……」


 俺はついにこらえきれなくなって、ツッコミをいれることにした。

 リゼルはきょとんとして聞き返してくる。


「何かしら」


「いや、なんで俺そんな話を聞かされてるのかなって思って。別に俺、リゼルさんの悪評を流したりはしてないですよね」


「うぐっ……。そ、それは、その……私の言い分も、聞いてほしかっただけよ……」


 リゼルは俺のツッコミを受けて、しゅんとなってしまった。

 ちょっと可愛い気もするが、この人いったい何歳なんだろう……。


 ていうか、いまだに何の話をされているのか分からない。

 この人ひょっとして、自分の主張を吐き出せる相手を探していただけでは……?


 まあとりあえず、こっちの聞きたいことに話を誘導しよう。


「それよりもリゼルさん。うちの教え子たちの衣装デザインをどうとか言ってましたね。あれってどういうことなんです?」


「ああ、そうそう。その話だったわね」


 気を取り直したリゼル。

 紙とペンを取り出して、さささっと衣装の絵を描いていく。


 おそろしい早業だ。

 まごうことなきプロフェッショナル……いや、エキスパートの技術。


 そしてリゼルは、できあがった簡単だが美麗な衣装画を俺に見せてくる。


「私ね、舞台アイドルの衣装デザインも手掛けているの。ううん、どっちかっていうとそっちのほうが得意分野かな」


「はあ」


 舞台アイドルというと、可憐な衣装を身にまとったビジュアル系の舞台歌手で、歌って踊ってトークするなど、様々なライブイベントを行って観客を魅了する少女たちのことだ。


 この芸術の都ラヴィルトンでは、アイドル活動も盛んだ。


 トップクラスのアイドルユニットのライブともなれば、大規模ホールが超満員となり、わざわざ遠方から見にくるファンすらも少なくないほどと聞く。


 だが、ということは──


「いや、ちょっと待ってください。確かにうちの子たちはそんじょそこらのアイドルよりよっぽど可愛いですけど、あいつらは今、立派な勇者になるために訓練をしている最中なんです。アイドル活動なんかにかまけている暇はないですよ」


 俺がそう言うと、リゼルはどこか呆れたような表情を見せた。


「うん、あなた今さらっと親バカ発言したの分かってる? ていうかあなたあの子たちの何なの? 父親っていう年には見えないけれど」


「あいつらの教師です。俺は勇者学院の教師でブレットといいます。あと可愛いものを可愛いと言って何が悪いんですか。事実じゃないですか」


「ああ、うん……分かったわ、ブレット。そこはそれ以上突っ込まないことにするわ」


 呆れるばかりか、諦められた。

 事実を言っただけなのに、解せぬ……。


「でも、そっか……アイドルをやっている暇はないか……もったいないな。あの子たちなら確かにめちゃくちゃ可愛いし、アイドル界の天下だって取れるかもしれないのに……」


 リゼルはそう言って考え込む。

 そしてぶつくさと口の中で何事かつぶやいてから、再び俺に視線を向けてきた。


「……うん、やっぱりそうね。アイドル活動をするかどうかを置いても、あの子たちに地味な衣装を着せておくのは犯罪よ。全人類の損失だわ。私はそんなの絶対に許せない。あの子たちに似合うのは、可憐にコーディネートされたアイドル衣装よ。これだけは譲れないわ」


「えっと、何言ってんですかねリゼルさん」


 大丈夫だろうかこの人……。

 だがリゼルは口をとがらせて、不満そうな眼差しで俺を見つめてくる。


「……何よ、事実を言っただけじゃない。なんで呆れているのよ。解せないわ」


「はあ……。まあいいです、そこはもう突っ込みません。でもアイドル衣装で勇者活動なんてできませんよ。ちゃんとした防具を身につけていないと、強敵と出会ったときに危険です」


「だーかーらー」


 リゼルはなんで分からないかなぁという調子で言って、次にはこうつなげた。


「私が魔法繊維を使った強化素材を使って、あの子たちの防具をデザインするって言ってるの。やらせてちょうだい」


 ほう……?

 思いもかけない申し出に、俺は意表を突かれていた。


 と、ちょうどそこに、採寸と撮影を終えたリオ、イリス、メイファの三人が、応接室へと戻ってきた。


「あのさ兄ちゃん、今更だけど、なんでオレたち胸囲とか測ったり写真撮られたりしたの?」


「先生がいないところで、知らない人ばかりで、少し心細かったです……」


「……写真をブロマイドとして売るつもりなら、権利料に関してはお兄さんと交渉するように言っておいた。抜かりはない」


 そう言って、てててっと俺のもとに集まってくる教え子たち。


 俺は何となく、お疲れ様の意を込めて三人の頭を一人ずつなでていく。

 なでられた猫のように気持ちよさそうにするリオ、イリス、メイファの三人。


 その一方でエルフの職人リゼルは、腰かけていたソファーから立ち上がる。


「まあそういうわけだから、考えておいてちょうだい、ブレット先生。──さ、出口までお見送りするわ」


 と、そんなこんながあって、俺たちはリゼル武具店をあとにすることとなる。


 だが、そうして店を出ようとしたときに、さらなる出来事と遭遇した。


 店の入り口付近まで来たところで、何やら怒鳴り声が聞こえてきたのだ。


「ふんっ、相変わらずこんな詐欺商売をしおって! お前たちでは話にならん、リゼルを呼べ! 今日という今日こそは、あの女狐エルフの高く伸びた鼻をへし折ってくれる!」


 何事かと見にいってみると、店のエントランス付近で騒ぎ立てているのは、一人の男性ドワーフのようだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] あ ドワーフ出てきたw なるほどそういうことかぁ~w [気になる点] デザインもだけど性能も・・・ あーでもフラセボ効果もあるのか・・・ 赤銅(だったか)の言い伝えのあるし・・・ [一言…
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