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捨て猫勇者を育てよう ~教師に転職した凄腕の魔王ハンター、Sランクの教え子たちにすごく懐かれる~  作者: いかぽん
第2部/第4章

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第79話

 森の奥から歩み出てきた狼の数は、全部で七体。

 俺たちの行く手を阻むように現れ、よだれをだらだらと垂らし、ぐるると唸り声をあげていた。


 しかもそれら一体一体が、一般的な狼と比べるとかなり大柄──虎やライオンと見まごうほどの巨躯だ。


 巨体で目が赤く光って、しかも状況が状況とくれば間違いない。

 あれはヴァンパイアウルフという、ヴァンパイアが召喚することのできる眷属の魔狼だ。


 グリフォンやミノタウロスといった中級魔獣に匹敵する強さで、並みの魔王ハンターだと一対一で戦えば苦戦するぐらいの相手なのだが──


「……あー、イリス、メイファ。そろそろ腕、離してくれるか?」


 俺が自分の左右に向かってそう言うと、まず右腕の金髪の天使がハッと気付いたように俺の腕から離れた。


「は、はい、先生! ──あいつら、よくも先生との時間の邪魔をして。許さないから!」


 何か不思議なことを言って、てててっと前に走りながら弓を取り出したイリス。


 最前衛まで出ると、矢筒から十本ぐらいの矢を同時に取り出し、横向きに構えた弓にまとめて番えて一斉に発射した。


「──【ファニングシュート】!」


 ビュッという風を切る音とともに、イリスの弓から多数の矢が扇状に射出された。


『ギャウウウッ……!』


 うち四本がそれぞれ一本ずつ四体のヴァンパイアウルフに命中、魔狼たちが悲鳴を上げる。

 一方、残りの何本かの矢は外れて、その辺の木の幹などに突き刺さった。


 弓の初級中位の技【ファニングシュート】は、狙いを定めずに多数の矢を扇状に同時発射する範囲攻撃スキルだ。

 そもそも命中率の低いスキルだから、四本も当たれば上出来だろう。


 致命傷ではないにせよ、イリスが放った矢は四体の魔狼にダメージを与え怯ませた。


 だが残りの三体は、逆にいきり立ってイリスに向かって襲い掛かってくる。


 がるるっと吠え声をあげ、よだれをまき散らしながら襲い来るヴァンパイアウルフたちを前にしても、イリスは毅然とした態度を崩さなかった。


「お前たちなんか、怖くも何ともないんだから! ──リオ!」


「あいよ、イリス!」


 イリスに襲い掛かろうとする魔狼たちの前に、妹を守るようにして剣を抜いたリオが立ちふさがる。


 そしてリオは、飛び掛かってくるヴァンパイアウルフを前に素早く闘気を溜め──


「行くぜ犬っコロ──【疾風剣】!」


 魔狼たちを迎撃するようにして、無数の斬撃を放った。


 ──ズババババッ!


 リオが放った縦横無尽の十二の斬撃が、飛び掛かってきた四体のヴァンパイアウルフに炸裂する。


 それで魔狼たちは弾き飛ばされ、地面に叩き落された。


 だが赤い目の魔狼たちは、すぐに身を起こして戦闘態勢を整え直す。


 イリスが【ファニングシュート】でダメージを与えたやつらも同様で、鋭い牙と闘争本能をむき出しにしてリオたちに向かって近付いてきていた。


「ちっ、結構タフだな。──メイファ!」


「……ほいほい。……働きたくはないけど、ボクもちょっとは活躍しとこう」


 そう言ってメイファはようやく俺の腕から離れ、両腕を左右へと広げた。

 そして──


「……右手から【炎の矢(ファイアボルト)】、左手からも【炎の矢(ファイアボルト)】。……いけっ!」


 得意の十連火炎弾をヴァンパイアウルフたちに向けて放った。


 ──ドォオオオオオオオンッ!


 火炎弾が魔狼たちに着弾し、たちまち炎を巻き上げる。


 一方、そうしてメラメラと燃え盛る狼たちを見て、“魔帝”マヌエルがほうと目を細めた。


「なんじゃちっこいの、おぬし初級魔法を【二重行使(ダブルキャスト)】で使えるんかい。しかも相当手慣れておるな。魔力のコントロールもえらい器用じゃ」


「……ちっこいの言うな。ボクにはメイファっていう名前がある。……でも褒め言葉は、受け取っておく。もっと褒めてもいい」


 そんなやり取りをしている中、燃え盛っていたヴァンパイアウルフはというと──


 七体のうち二体が倒れたが、残りの五体はいまだ倒れず、焼け焦げながらも戦闘継続の気配を見せていた。


 ヴァンパイアウルフがタフなのもあるが、リオ、イリス、メイファの三人が使ったスキルがどれも単発が軽い技だから、ターゲットが分散するとなかなか致命打にならないっていうのもあるんだよな。


 一方で“魔帝”マヌエルは、そんなしぶとい魔狼たちを一瞥すると、メイファに向かって声をかける。


「ん──じゃあメイファ嬢ちゃん。ちぃと見とれ」


 そう言って老人は、ヴァンパイアウルフたちのほうへと向かって立ち、その両腕を左右に広げた。


「──右手から【炎の矢(ファイアボルト)】、左手から【炎の矢(ファイアボルト)】……」


 ──ボボボボボボッ!


 マヌエルの両手の周囲に、各八つ、トータルで十六の火炎弾が生まれる。

 一つ一つの火炎弾も、メイファのそれより数割増しで大きい。

 それを見たメイファが、大きく目を見開いた。


 だが、“魔帝”マヌエルが見せる真価は、さらに先にあった。


「──結合」


 マヌエルが両手を拳にしてぐっと握ると、右手の八つ、左手の八つの火炎弾がそれぞれに寄り集まり、左右に一つずつ、合わせて二つの大きな炎の塊となった。


「……おおー」


 メイファはそれを見て、好奇に瞳を輝かせる。

 何が起こるのか、ワクワクしている様子だ。


 それを見たマヌエルはニッと笑い、さらに両手を合わせてその二つの炎の塊を一つにひとつにする。


「さらに結合。でもって変形」


 マヌエルはヴァンパイアウルフたちに向かって半身になると、握った左手を前方に突き出し、同じく握った右手を後ろに引いて、弓を引くような姿勢をとった。


 それに呼応するように炎の塊が変形し、燃え盛る弓と矢の姿を得る。


「……か、かっこいい……! ……お、お兄さん、あれ、かっこいい……!」


 メイファはもう、完全にのめりこんでいた。


 俺の服の裾をくいくいと引っ張って感動を伝えてきつつ、その目はマヌエルの動作を一瞬も見逃すまいと、老人勇者の姿を夢中になって見つめている。


 マヌエルの作った炎の弓矢は、特に矢の部分が白く輝くほどに強い熱量を帯びており、決してただ【炎の矢(ファイアボルト)】をまとめただけというような代物ではなさそうだ。


「これで完成じゃ。で、あとはこれを放つだけってわけじゃな。──【不死鳥の矢(フェニックスアロー)】!」


 ──キュオアアアアッ!


 大気を引き裂くような、あるいは怪鳥の鳴き声とも聞こえる音とともに、“魔帝”マヌエルが構えた炎の弓から矢が放たれた。


 射出された燃え盛る矢は一瞬後に火の鳥のような形に姿を変え、そのままヴァンパイアウルフの一体へと直撃。


 ──キュドォオオオオオオオオンッ!


 恐ろしいまでの灼熱の炎の柱が、そのヴァンパイアウルフを包み込んだ。


「……おおーっ!」


 それを見たメイファの感動たるやない。

 キラキラと瞳を輝かせて、うっとりするような目でその光景を見つめていた。


「どうじゃメイファ嬢ちゃん。おぬしならこの技、ちぃと練習すればすぐに使えるようになると思うが」


「……する! 練習する! ……これは、ほしい! かっこいい!」


「ほっほっ、そうじゃろそうじゃろ。まだ若いのに、浪漫っちゅうものが分かっておるのおぬし」


「……お爺さんこそ、とてもセンスがある!」


「ちなみにこの技、ワシが開発したんじゃがの」


「……本当!? それは尊敬する! ボクはお爺さんのこと、お兄さんの次ぐらいに尊敬する!」


 なんかメイファと“魔帝”マヌエルの二人が、妙に意気投合していた。

 しかし俺の次ってそれは本当に尊敬しているのか。


 ちなみにマヌエルが放った【不死鳥の矢(フェニックスアロー)】は単体攻撃技だったようで、残るヴァンパイアウルフ四体がさりげなくフリーだったのだが、そこは“武神”オズワルドが愛用の大斧で薙ぎ払うことによってつつがなく葬り去っていた。


“武神”オズワルド、あまり目立たないが地味にいい仕事をする筋肉半裸おじさんである。


 そんなこんなでヴァンパイアの庭の番犬を蹴散らしつつ、俺たちはさらに先へと進んでいく。


 前方の木の上を見上げれば、薄い霧の向こうに厳めしい古城の姿がほのかに見え始めていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 合体魔法とフィンガーフレアボムズとカイザーフェニックスが混ざってませんかね?w(≧▽≦;)
[一言] メ・ラ・ゾ・オ・マ じゃなかったかw
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