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捨て猫勇者を育てよう ~教師に転職した凄腕の魔王ハンター、Sランクの教え子たちにすごく懐かれる~  作者: いかぽん
第2部/第2章

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第68話

 メイファの【炎の矢(ファイアボルト)】に焼かれたヴァンパイアスポーンたちだったが、その一射で三体が全滅するというようなことはもちろんなかった。


 むしろ一体すらも沈黙せず、三体は炎を振り払うと、怒り狂った様子で俺たちに襲い掛かってきた。


「メイファ、下がってろ!」


「……がってん承知」


 メイファが素直に俺の指示に従い、後退する。

 俺はメイファを守るように前に立った。


 いや、俺の指示に従って下がったというのも違うんだろうな。


 メイファはメイファで、自分で考えて動いている。

 戦術的な考えで、俺と意見が合ったというのが実際のところだろう。


 メイファは典型的な後衛型の勇者だ。


 一応は槍も扱えるし身のこなしも悪くはないが、彼女の何よりの長所は攻撃魔法砲台としての魔法攻撃力の高さであると言える。


 対して俺は、比較的オールラウンダーだが、どちらかというと前衛に立つのに適したステータスを持っている。


 俺とメイファのコンビなら、適材適所で前衛と後衛に分かれるのが自然なわけだ。


「──シャアアアアアアッ!」


 ヴァンパイアスポーンのうちの一体が、俺につかみかかろうと正面から突進してくる。


 防御をかなぐり捨てた攻撃だ。

 こっちを格上と見て、相打ちでも捕まえればいいと思っているのか。


 そして捕まえられたあとに待つのは、あの鋭い牙による吸血攻撃だろう。


 一方でその後ろから、別の二体のスポーンが左右に駆け出していく。

 俺をスルーして、背後のメイファに襲い掛かろうという魂胆か。


 なかなか厄介な動きをしてくるな。

 全部を防ぐのは困難だ。


 なら──


「【疾風剣】!」


 ──ズババババッ!


 俺はまず【疾風剣】で、正面から来たスポーンを切り刻んだ。


 トータル十二の斬撃を受けたスポーンはそれで奥まで吹き飛び、壁に激突して動かなくなる。

 まずこれで一体。


 だが残り二体が、俺の左右を通り抜けてメイファを襲いに──


「──行かせるかよ!」


 俺は【疾風剣】後の体勢の崩れを強引に振り切り、左手を伸ばして、俺の左側を通り過ぎようとしていたスポーンの手を引っつかまえ、無理やり床に引きずり倒した。


 俺も体勢を崩して床に倒れるが、構わない。


 そのスポーンは困惑してもがき、暴れようとするが、俺はそれを力づくで取り押さえにかかる。


「メイファ! もう一体は頼む!」


 俺がそう叫ぶと同時──


「……お兄さん、すごすぎ。……でも、おかげで楽に戦える。……【炎の矢(ファイアボルト)】!」


 メイファが再び、【炎の矢(ファイアボルト)】を二重行使(ダブルキャスト)で放った。


 十の火炎弾すべてが残る一体のスポーンに叩き込まれ、そのスポーンは燃え上がって床に崩れ落ちる。


 これであとは、俺が取り押さえている一体だけだ。

 家の奥からこれ以上のおかわりが現れるようなこともなさそうだ。


 俺は自分が取り押さえたスポーンに向かって叫ぶ。


「おい、お前たちの親玉、真なるヴァンパイアはどこにいる! お前たちはなぜ、どんな命令を受けてここに隠れていた!」


「ガウゥウウウウウッ! グルァアアアアッ! ニンゲンの、ユウシャめっ……! アノお方こそが、このセカイを統べるのだ……! 下等なニンゲンフゼイが、チョウシにノるなぁっ……!」


 じたばたと暴れながら叫び返してくるスポーンだが、有用な情報は喋ってくれそうになかった。


 加えて少しでも油断すると、その牙で俺の体のどこにでも噛みついてこようとする。

 下手な猛獣や魔獣の類よりも、よほどタチが悪い。


「チッ……しょうがねぇ、眠れ!」


 俺は暴れるスポーンの頭部に向かって、闘気で強化した頭突きを三回叩き込んだ。


 立て続けに頭部を打ち付けられたスポーンは、やがて全身の力をがくりと力を失った。


 これで最後のスポーンも戦闘不能となった。

 戦闘終了だ。


 俺はスポーンから離れ、体についたほこりを払いつつ立ち上がる。


「ふぅっ……。スポーンから情報を得るのは難しそうだな」


「……お兄さん、すごい。……やることが強引というか、迫力がある」


 メイファが感心したように言って、俺のもとに寄ってきた。


「まあな。お行儀よく戦うばかりが全部じゃないさ」


「……そういう強引さでお兄さんに迫ってこられたら、ボクも、どうにかなってしまうかも。……お兄さん、今度ボクに、そんな感じで壁ドンとかしてみてほしい」


「……あー、そういう話は、また今度な」


 俺は苦笑しながらそう返す。

 でもメイファの緊張感のない言葉が、なんだか愛おしかった。


 ずっとシリアスな気持ちでいても、張りつめ続けた糸はたやすく切れてしまうから、こういうのはありがたいんだよな。


 さておき。

 その後俺たちは家の中を散策したが、ほかにヴァンパイアスポーンが潜んでいる様子はなかった。


 その代わり、奥の部屋にも土を詰めた棺桶が三つ、安置されていたのを発見した。


 ヴァンパイアとそのスポーンは、「不浄なる土」を寝床とする。


 そして一日に一度は「不浄なる土」のある場所で眠りにつかないと、彼らは徹夜状態の人間と同じようにどんどん弱っていく。


 要するに、自分専用の布団でしか眠れないという制約を持った難儀なモンスターなのだ。

 強い力を持つ一方で、いろいろと弱点や制約も多いのがヴァンパイアというアンデッドモンスターである。


 ともあれ、家の中の確認を終えた俺はメイファを連れて、スポーンたちの棲み処だった住居を出ていく。


 するとそこに、村人たちの避難誘導を終えたらしきイリスが戻ってきた。

 イリスは俺たちの姿を確認すると、小走りで駆け寄ってくる。


「──先生! 中はどうでした? それにメイファも、大丈夫だった?」


「ヴァンパイアスポーン──ヴァンパイアに血を吸われて怪物化したやつが四体いた。でも全部倒したよ。メイファの援護もあって、無傷でな」


「……ぶい」


 メイファが指でピースサインを作ってイリスに見せる。

 少し自慢げな様子だった。


 それはさておき──


「ところでイリス、リオはどうした?」


 俺はイリスに、そう問いかける。


 周囲を見回しても、三姉妹の長女の姿が見当たらなかったのだ。


「あー、えっと……まだ、戻ってきてないですか? 私とは手分けして、逆方向にいた村の人たちを避難させていたはずなんですけど」


「ふぅん、なるほどな。まあしばらくすれば戻ってくるか」


 そうしてしばらく待っていると、やがてリオも帰ってきた。


 リオは遠くから俺たちの姿を見付けると、パタパタと駆け寄ってくる。


「お待たせ、兄ちゃん。……家の中の敵、どうだった?」


「おう。中にいたヴァンパイアの手下は、メイファと協力して全部バッチリ倒したぞ」


「へ、へぇー。中にいたの、ヴァンパイアの手下だったんだ」


「まあな。……しかしどうしたリオ? 何か気になることでもあるのか?」


「う、ううん、なんでもない。それより兄ちゃん、これからどうすんの?」


「あー……まずアレだな。倒したヴァンパイアスポーンの治療をしよう」


「……倒したモンスターを、治療するんですか?」


 横からイリスが口を挟んでくる。

 俺はそのイリスの髪に手を置いて、わしわしとなでる。


「ああ──イリスの出番だぞ」


「ほえ……? 私の出番……?」


 俺になでられたイリスは、猫のように目を細めながらも、可愛らしく小首を傾げた。


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