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捨て猫勇者を育てよう ~教師に転職した凄腕の魔王ハンター、Sランクの教え子たちにすごく懐かれる~  作者: いかぽん
第2章

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第17話

 それから、およそ一週間後。


 そろそろ空が赤らんでくる夕刻前。

 村の一角の、走路が十分に取れる空き地に、俺たちはいた。


 三人の少女が、地面に木の棒で引いたラインの向こうに立って、スタートの準備をしている。


 俺はそこから百メートル離れた地点に引いたもう一本のラインのそばに立ち、少女たちのほうに向けて声をあげた。


「位置について──よーい、スタート!」


 ──ピッ!

 俺が手元の魔導ウォッチのスイッチを押すと同時に、少女たちが一斉に駆けだした。


 三人はぐんぐんとスピードをあげてくる。

 まだ勇者としての実力を十分に身に着けていない彼女らだが、それでも一般女子の走力とはすでに一線を画している。


 中でも圧倒的に速いのはリオだ。

 イリスとメイファも十分に速いのだが、リオはそんな彼女らすらも、凄まじい加速力でぐんぐんと引き離していく。


 そして、あっという間にリオがゴール。

 それに少し遅れて、イリスとメイファがゴールした。


 膝に手をつき、はぁはぁと息をつく少女たち。


 そんな三人の中でも、すぐに呼吸を取り戻したのは、やはりリオだ。


「ふぅっ──兄ちゃん、どうだった?」


「おう、すごいぞリオ。十秒五だ。一週間前に測ったときより、〇.三秒も速くなってるな。トレーニング頑張ってたからな」


「へへー、まあなー」


 俺がリオの頭をなでてやると、リオは嬉しそうな、こそばゆそうな顔でニタニタとする。


 ああ、可愛いなぁもう。

 抱きしめたいなぁ。

 でもリオを抱きしめてしまうとまた例の悪い病気が出るので、我慢、我慢だ。


 一方、それを見たイリスとメイファも、俺のほうへとやってくる。


「先生、私はどうでした……? その、少しはタイム伸びてますか……?」


「……ボクも、わりと頑張った。……リオみたいに、ほめられた上に頭をなでられるのも、やぶさかではない」


「ああ、イリスとメイファも伸びてるぞ。二人とも十一秒六。一週間前よりも〇.二秒も速くなってる。お前たちも頑張ってるよな」


「は、はい……! まだまだ全然ですけど……でも、嬉しいです。えへへ~」


「……お兄さんの頭なでなでは、クセになるコクとまろやかさがある。……油断すると、手懐けられそう」


 イリスとメイファにも、リオと入れ替わりで頭をなでてやる。

 二人もまた嬉しそうに、にこにこしていた。


 この「頭なでなで」は、この一週間のうちに、いつの間にか定例化してしまった感がある。


 最初はなんとなくやっていただけだったのだが、そのうちイリスを筆頭として暗に目で要求してくるようになり、今では事あるごとにやらなければ物足りないぐらいになっていた。


 むしろ手懐けられているのは俺のほうではないのかとすら思う。

 少女たちの恐るべき魅力に、俺もうロリコンでもいいかなと、最近は抵抗をあきらめつつあった。


 ──そんなわけで、俺が彼女らの教師を始めてから、もう一週間だ。


 このわずか一週間だけでも、三人は目覚ましい成長を遂げていた。


 全員が筋力や敏捷性、魔力などの基礎能力を向上させているのはもちろんのこと。


 技術面での修得を見ても、リオは【二段切り】【スマッシュ】という剣士の初級にして基本中の基本と言える技をすでに完璧にマスターしていたし、魔法も昨日の段階で【発火(イグナイト)】を使えるようになっていた。


 メイファは【発火(イグナイト)】【(ウィンド)】の二つの基礎魔法のほか【炎の矢(ファイアボルト)】という初級攻撃魔法まであっという間に使えるようになり、槍のスキルでは現在【二段突き】の習得に精を出しているところだ。


 イリスもメイファと似たようなもので、【水作成(クリエイトウォーター)】【(ライト)】という二つの基礎魔法に加えて【癒しの水(ヒールウォーター)】という治癒魔法を修得済みで、弓のスキルとしては【クイックショット】をもうすぐ習得できそう、という段階まできていた。


 もちろんこれは、尋常な成長ペースではない。

 勇者が誰しもこんなペースで成長するようなら、俺たちも苦労はないわけで。


 俺は彼女らの仕上がり状況を確認して満足しつつ、一つつぶやく。


「これは──そろそろ試してみてもいいかもな」


 何を試すのかといえば、以前から考えていた魔王ハンターとしての実戦訓練だ。

 もちろん、俺が後ろにピッタリついて見ているという補助付きで、だが。


 うん、そうだな。

 明日には三人を連れて、街の勇者ギルドに行ってみることにしよう。


 そう考えつつ、俺はパンパンと手を叩く。


「──よし。リオ、イリス、メイファ、今日はここまでで切り上げだ。帰って夕食の準備するぞ」


「「「はーい」」」


 そうして俺は、三人の少女を連れて、夕焼けが広がり始めた空の下、麦畑の間の道を歩いて帰宅の途についた。


 今日の夕飯はシチューだ。

 食材は街で買い込んだものが家に置いてあるから、調理をするだけ。


 なお【発火(イグナイト)】や【水作成(クリエイトウォーター)】を生徒たちが修得して以降、食事を作る際などには積極的に使わせるようにしている。


 それらの魔法の習熟度に関しては、リオ以外はもう十分なのだが、魔法を日常的に使うことは魔力向上のためのトレーニングにもなるからな。


 ──などと考えていたとき。

 プルプルプル、と、俺の懐に入れてあった通話魔法具が着信の音を鳴らした。


「んん……? 誰だ?」


 教え子たちが俺に注目する中、俺は懐から通話魔法具を取り出す。

 通話魔法具の相手先には「アルマ」と表示されていた。


 メイファが俺の前に立ち、背伸びをして覗き込もうとしてくる。


「……お兄さん、誰から? ……さては、昔の女」


「なんでお前は今の嫁風なんだ──おう、アルマ先生か、どうした?」


 俺はメイファにツッコミを入れつつ、通話魔法具のスイッチを押して通話を受けた。


『や、ブレット先生、元気? あたしに会えなくて寂しくないかと思ってかけてみたけど』


 通話魔法具から、久々に聞く声が流れてくる。

 俺は麦畑の間の道を少女たちを伴って歩きながら、笑って答える。


「はっ、バーカ、何言ってんだ。新しい教え子たちが可愛すぎて、もうめちゃくちゃ元気だよ」


『へぇ、それは良かった。でもいくら可愛いからって、教え子に手を出したらダメだよ?』


「アホか。ったく、アルマ先生は俺を何だと思ってるんですかね」


『えっと、教育バカ、ときどき暴走マンですかね』


「的確すぎて反論できないのでやめてください」


『あははははっ』


 ちなみに通話中、メイファがしきりに通話内容を聞こうとして、ぴったりと俺に寄り添ってきていた。


 俺はそれを、しっしっと手で払いのける。

 メイファがムッとした顔を見せた。


 俺は気にせず会話を続ける。


「で、アルマ先生。そっちはどうだ? 何か変わったこととか──」


 ──そのときだった。

 メイファが通話魔法具の送信口に口を近付けて、こんな言葉を口走ったのは。


「……んああっ、お兄さんの大きいの、ボクの中に、入って……ふぁあああああああっ」


 ──ピッ。

 メイファが通話魔法具のスイッチを切った。


 ツー、ツー、ツー。

 通信が切れた。


「……おい、メイファ」


「……ふふん。……昔の女と話すなら、ボクたちの許可を取ってからにして痛い痛いっ!」


「お前のやることは、ときどき冗談にならねぇんだよ!」


 俺はメイファのこめかみを両拳でぐりぐりした。


 アルマなら説明すれば分かってくれるとは思うが……うぅっ。


 俺はメイファを折檻したあと、慌ててアルマへの通話をかけ直した。


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