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捨て猫勇者を育てよう ~教師に転職した凄腕の魔王ハンター、Sランクの教え子たちにすごく懐かれる~  作者: いかぽん
第4部/第4章

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第148話

 それから二日後。

 準備を終えた俺たちは、サハギンどものアジトへと攻め込んだ。


 サハギンどものアジトは、小さな島一つを占拠したものだ。


 島は大部分が険しい岩山で占められているが、誰が作ったものか、その岩山の内部には広大な洞窟が広がっている。

 その洞窟全体が、サハギンたちのアジトになっているというわけだ。


 洞窟の入り口は、表と裏にそれぞれ一ヶ所ずつ。

 表のほうは広々としていて、裏の方は狭苦しい。


 俺たちは囚われている村の娘たちを救出するため、裏口からアジトの内部へと侵入した。


 裏口から入って細い洞窟を進んでいくと、やがて往く先から、サハギンどもの声が聞こえてきた。


 俺は後続の仲間たち──リオ、イリス、メイファ、マリーナ、アーニャの五人──に、口に人差し指を当てて静かにするように伝えると、サハギンどもの声に耳を澄ませる。


 聞こえてきたのは、こんな会話だ。


「ギャギャギャッ、この人間の娘たち、五人ともずいぶんみすぼらしい姿になっちまったな。捕まえてきたときは、あんなにピチピチしてうまそうだったのに、もうどいつも死にかけじゃねぇかよ。もったいねぇな」


「ギョギョッ、気を付けろよ。あのお方に聞かれたらタダじゃ済まねぇぞ。──けど柱にくくりつけて、飯も食わせずに水だけを与えて、もう四日目か? そりゃそうなるだろ。司祭どもが言うには、これが儀式だってんだからしょうがねぇ」


「ギャギャッ、まったくよぉ。世界征服もいいけど、俺は思う存分、若い人間の女が食いてぇぜ」


「同感だ」


「「ギャーハハハハハッ!」」


 そんな会話をしたあとも、サハギンたちの会話が尽きることはなかった。


 数は二体だろうか。

 声が離れていかないことを考えると、見張りかもしれない。


 できればもう少し、情報が欲しいところだ。

 俺は一つ、魔法を行使する。


「──【拡大聴覚(ハイヒアリング)】」


 音を感知する魔力の波紋が、俺を中心にして広がっていく。


 すると、話をしている二体のサハギンとは別に、たくさんのサハギンらしき声を感知できた。


 俺は小声で、仲間たちに伝える。


「ダメだな、この先には結構な数のサハギンがいる。人質の近くにいるのが少数だったら、奇襲を仕掛けて気付かれないうちに脱出という手もありえただろうが」


「じゃあ兄ちゃん、予定どおりに、サハギンは全部ぶっ倒すってこと?」


「そうなるな」


「……結局、脳筋な展開になる。……まあ、知ってたけど」


 メイファがやれやれと肩をすくめた。


 俺はそのまま、仲間たちを引き連れて、細い洞窟を静かに進んでいく。


 やがて細道が、大広間へと繋がっている場所の近くまで来た。

 俺は壁際に寄って、その先の大広間の様子をこっそりと覗く。


 大広間には、三十体ほどの数のサハギンがいた。


 座って飯を食っている者、横になっていびきをかいている者、槍を片手に喧嘩をしている者、それを見物している者などさまざまだ。


 一方、俺たちのいる細道の出口からすぐの場所には、村娘らしき五人の少女たちが囚われていた。


 いずれも床から伸びた石柱に縛り付けられており、すすり泣いたり、生気のない瞳であらぬ方を見つめていたり、力なくぐったりとしていたりした。


 俺はそれを見て、いたたまれない気持ちになった。


 俺があのときすぐにここに向かうことを決めていれば、この娘たちはここまで苦しまずに済んだのかもしれない。


 だが後戻りはできないし、心は痛むが、後悔はない。

 俺にできるのは、ここで彼女らを必ず助けてやることだけだ。


「手筈通りに行くぞ。──彼女たちは必ず助ける。俺たちも全員必ず生きて帰る。いいな」


 俺のその言葉に、五人の少女たちは真剣な表情でうなずいた。


 それから俺は、自身の声を拡大する風属性魔法【拡声(グレートヴォイス)】を使うと、隠れていた細道から大広間へと飛び出した。


 俺の後に続いて、リオ、イリス、メイファ、マリーナ、アーニャの五人も大広間へと飛び出してくる。


「──ギョギョッ!? 裏口から人間だと!? ──ぐわぁーっ!」


「ギャギャギャッ!? ──お、おいお前ら、侵入者だぞ! 人間だーっ! ぶっ殺、ギャアアアアッ!」


 俺とリオの二人で、すぐ近くにいた二体のサハギンを斬り捨てる。


 イリス、メイファ、マリーナ、アーニャの四人は、石柱に縛り付けられている娘たちのロープを次々と切って、娘たちを救出して回っていた。


 俺は囚われていた娘たち五人の自由が取り戻されたタイミングで、全員に耳を塞ぐようジェスチャーで伝える。


 状況が分かっていない娘たちにも伝達が終わったことを確認すると、俺は大きく息を吸い込む。


 そして、叫んだ。


『──サハギンどもぉおおおおおっ! お前らの野望を、勇者が打ち砕きにきたぞぉおおおおっ! 魔王がいるなら出てこぉおおおおい!』


 魔法で拡大された大声は、洞窟じゅうに──いや、洞窟の外にも届くであろう声量で、わんわんと響きわたる。


 比較的近くにいたサハギンの何体かは、耳を押さえて悶絶し、もんどりうって転がった。


 俺はそうして「外への合図」を終えると、魔法の効果を切って、仲間たちに指示を出す。


「マリーナとアーニャは、娘たちを安全な場所まで誘導してくれ! ──リオ、イリス、メイファは、ここで俺と一緒に敵を食い止めろ!」


「「「はい! ──ガードクローク・ドレスアップ!」」」


 ──そうして、戦闘が始まった。


 大広間にいたサハギンたちは、我を取り戻すなり、武器を手に俺たちに向かって襲い掛かってくる。


「させるか!」


「ここは通さねぇっ!」


 俺とリオが前に立ち、襲い掛かってくるサハギンや、投擲され飛んでくる槍を斬り捨てる。


「敵が散らばってて……! でも──いきます、【アローレイン】!」


「……場所が、広すぎる。……一度に巻き込めるのは、四、五体が限度だけど──いけっ、【火球(ファイアボール)】!」


 イリスとメイファが後ろから、攻撃魔法と弓による攻撃を放つ。

 矢の雨と爆炎が、サハギンたちを次々と打ち倒していく。


 そうして、やがて五体、十体と、打ち倒されたサハギンが積み重なっていった。


 だがキャプテンミスリルの宝島で戦ったときよりも広さのあるこの大広間では、敵の密集度が低く、イリスの弓攻撃もメイファの魔法攻撃も、あのときほど大規模には功を奏さない。


 一方で大広間には、次々とサハギンが集まってくる。


 敵撃破の速度よりも、敵がこの大広間に集合してくる速度のほうがはるかに速い。


「兄ちゃん、まずい、数が多くなってきた! このままじゃ、前衛抜かれるかも──ぐっ……!」


 投擲槍の一本がリオの横っ腹に命中したようだが、防具で弾いたようだ。

 相変わらず、リゼルの防具様々だ。


 もっとも、防具に守られている部位にとはいえ命中を許すのは、リオも余裕がなくなってきている証拠だ。


 それに十分な余裕がなくなってきているのは、俺に関しても同じことだ。

 押し寄せる敵の数が多く、凌ぎ切るのが難しくなってきた。


 俺は状況の変化に応じて、全体に指示を出し直していく。


「リオ、無理はするな! 少しは突破されてもいい、俺もそうする!」


「りょ、了解、兄ちゃん! ──こんのぉおおおおっ!」


「イリス、メイファ、前衛を突破したサハギンは、優先的に片付けろ! 一発当たりの撃破数が減ってもいい!」


「わ、分かりました、先生!」


「……ん、分かった。……まあ、【炎の矢(ファイアボルト)】の二重行使(ダブルキャスト)でも、撃破数に大差はない」


「マリーナ、アーニャ! 娘たちはまだ逃せないか!?」


「ブレットさん、みんな弱ってて、まともに歩けないんだよ!」


「何とか運んでいますけど、全員をすぐには無理です!」


「分かった! できる限りでいい、急いでくれ! ──まあまあしんどい状況に、なってきたな!」


 俺は飛び掛かってきたサハギンを、一刀のもとに斬り捨てる。


 サハギンの撃破数も徐々に積み重なっているが、大広間に集まってくるサハギンの数も、そろそろ洒落にならなくなってきた。


 すでに五十を超える数のサハギンが、俺の視界内に現れている。


 その中には四本腕で大柄のサハギンバロンも二体混ざっており、後方からギャーギャーと指示を出していた。


 そして──


 そのとき大広間の入り口に、一つの巨体が悠然と現れる。


 そいつはサハギンバロンをさらに一回り──いや、二回り大きくして、腕が八本に増え、どす黒い瘴気に身を包んだ姿をしていた。


 サハギンの魔王──サハギンロード。


 ついに姿を現した大ボスは、遠くから俺たちを見下すように睥睨(へいげい)する。


「……ふん、人間の勇者が六匹か。どうやってここまでたどり着いたのかは知らんが──お前たち、何を手間取っている。たかが六匹のネズミごとき、さっさと数で押し潰せ。逃げた人間の娘も、現れた勇者の娘もすべて捕まえろ。一匹たりとも逃がすな」


 そうサハギンどもに指示を出すと、八本の武器や盾を手にした魔王自身も、こちらへと向かってきた。


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[良い点] 試し切りの割には敵が多すぎたな [一言] 魔王の力見せてもらおうか
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