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捨て猫勇者を育てよう ~教師に転職した凄腕の魔王ハンター、Sランクの教え子たちにすごく懐かれる~  作者: いかぽん
第4部/第2章

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135/151

第135話

 海神様の上から、全員で船の甲板へと飛び移る。


 船長は、例の若い娘の勇者のようだ。

 自ら怪我の治癒を終えた彼女は、乗組員十数人を背後に従えて、俺たちに向かってお礼を言ってくる。


「いや~、助かったよ。あたいはマリーナ、この船の船長をやってる。あんたたちは?」


 その船長の後ろでは、屈強な男の勇者二人が「助けてくれて!」「ありがとう!」と言って筋肉を誇張するポージングを取っている。


 ああ、そういう系かこの人たち。


「俺はブレット、勇者学院の教師です。訳あってサハギンどもを追ってきたんですが──生き残りのサハギンはいますか?」


「あー、どうだろ。逃げたやつ以外は、全部くたばってんじゃないかな」


「見せてもらっても?」


「あいよ。どうぞどうぞ」


 船長のマリーナから許可を受け、船上に倒れているサハギンを調べて回る。


 だがいずれもすでに事切れていて、アジトの場所を聞き出すことはできなかった。

 うーん……これは失敗したか?


 多少無理をしてでも、逃げたサハギンを追いかけるべきだったか……いやでも実際、水中のサハギンは侮れないし、泳いで追いつけないのも事実だし……。


 などと考えていると、船長のマリーナが「ちょっといいかな」と声をかけてきた。


「あんたたち、どうしてサハギンを追ってるんだい? 事によっちゃ、あたいたちは協力できるかもしれない」


 そう言うので、こちらの事情をマリーナに説明した。


 アーニャたちの住む村がサハギンの群れに襲われたこと。

 その村の娘が数人、サハギンどもにさらわれたこと。


 そして、娘たちはサハギンどもの儀式に捧げられるであろうことから、七日間は殺されないという見込みが立つこと。


 サハギンどものアジトを見つけ出し、さらわれた娘たちを救い出すというのが、村人たちから依頼を受けた俺たちの目的であること。


 俺の話を聞いていたマリーナは、不愉快そうに眉をひそめる。


「……ふぅん。そりゃあ確かに、胸糞の悪い話だね。それになんだか知らないけど、最近サハギンのやつらが調子づいてるんだよね」


 それに対して俺は、多数の大型弩(バリスタ)が搭載された船を見回しつつ、マリーナに聞く。


「この船、商船や漁船というには、武装が充実していて物々しいですね。かと言って軍船とも思えない。──サハギンも出没する危険な海域を単独で航行していたこの船は、どういった船なんです?」


 するとマリーナは、よくぞ聞いてくれましたとばかりに胸を張り、堂々たる態度でこう答えた。


「あたいたちは海賊さ。世界の海を股にかける、泣く子も黙るマリーナ海賊団たぁ、あたいたちのことよ。どこかであたいたちの名前、耳にしたことないかい?」


「いえ、それはないですね」


「あたたっ」


 俺の率直な返答に、マリーナはずっこける。

 残念ながら、普通に聞いたことがなかった。


「かぁーっ、まだあたいの名前じゃあ通用しないかぁ。……ん? でも待って……ブレット……ブレット……どこかで聞いたような……?」


「ああ、魔王ハンター時代には多少名前が売れていたみたいなんで、それじゃないですかね」


「ブレット……魔王ハンターのブレット……って! まさか、ブレット・クレイディル!? “万能”のブレット!? あんたが──じゃない、あなたが!? 騙りじゃなくて!? サインください! あたい、ブレットさんのファンなんです!」


 マリーナが突然、態度を豹変させた。


 海賊船の若き女船長は、近くの荷物箱から色紙とペンを取り出して俺に渡してくる。

 なんでそんなものが入ってるんだ。


 しかしあんまりキラキラとした目で見られるので、仕方なしにさらさらっとサインを書いて渡してやったら、マリーナは「うわーっ、うわーっ」と言って大興奮していた。


 うーむ、近頃の海賊娘はよく分からんな。


「ブレットさんって、誰にも従わない孤高の一匹狼って感じで格好いいですよね! あたい、ブレットさんのそういうところに憧れてるんです! たとえばあの伝説のハーピーロード退治の逸話なんかは──」


「あ、いや、今はそういう話はいいんで。それよりも……」


「それよりも──そうだ、どうしてブレットさんが勇者学院の教師なんてやってるんです!? あたいもブレット先生にいろいろと教えてほしいです! 二人っきりの船室で、甘い男女のレッスンとか──あうっ」


 あまりの暴走ぶりに、俺は思わず、マリーナのおでこにチョップをしていた。


「いいから落ち着け」


「痛たた~。でもブレット先生から愛の体罰。えへへ~」


 一瞬でポンコツ化した、この海賊船の女船長である。

 どうしようこの娘。


 しかもそこに、バババッと水着姿の教え子たち三人が間に入り、俺をマリーナから守るようにバリケードを作る。


「さっきから聞いてりゃ、なんなんだよお前! オレたちの兄ちゃんだぞ、横入りすんな!」


「せ、先生に手取り足取り教わりたいなら、まず私たちの許可を取ってください! 許可しませんけど!」


「……お兄さんは、渡さない。……あと、小麦色の肌の見事な体つきで誘惑したって、お兄さんはロリコンだから響かない。……あきらめて」


 ええと、ツッコミが追い付かないから、三人して変なことを言うのはやめような。

 特にメイファ。人聞きが悪すぎる。


 俺はメイファをひっ捕まえてその頭をぐりぐりしてやりつつ、「……痛い、痛いっ、お兄さん! ぐりぐりって、奥まで押し込まないで……!」とか言うので今度は口をふさいで取り押さえつつ、マリーナに向かって真面目な話をする。


「で、マリーナ船長。その海賊船が、どうしてサハギンに襲われたりしていたんだ? いや、襲われることはあるかもしれないが、俺の目には、やつらには何か目的があったように見えたんだが」


 するとポンコツ化してうずくまっていたマリーナが、「ああーっ!」と声を上げて立ち上がる。


「そうだった! あたいらの宝の地図! あいつら奪っていきやがった!」


「宝の地図?」


「ああ! あたいらが遠くの海まで何ヶ月も旅をしてやっと手に入れた、伝説の海賊・キャプテンミスリルが隠した宝の在り処が記された地図の一つさ! それをあいつら……!」


 こぶしを握り締め、ぐぬぬっと歯ぎしりするマリーナ。


 その後ろでは屈強な男の勇者二人が、「海賊を襲って宝の地図を奪うなんて!」「ふてぇやつらだ!」などと言いながらポージングしていた。


 一方、その話を興味なさそうに聞いていたイリスが、口元に手をあてて「でも……」と言って俺を見上げてくる。


「これでサハギンたちの居場所の手掛かりが、またなくなっちゃいました。……先生、どうします?」


「ああ、そうなんだよな。海神様も、ざっくりこのあたりでサハギンをよく見かけるってだけらしいし……」


 もうしばらくこのあたりを、海神様にさまよってもらうしかないか……?

 何か手掛かりでもあればいいんだが──


 そう思っていると、海賊船の船長マリーナが、ニッと笑いかけてくる。


「そこでだ、ブレットさん。あたいたちと手を組まないか?」


「手を組む……? どういうことだ?」


 俺が質問を返すと、マリーナは人差し指を立てて、甲板上を歩き回りながら説明してくる。


「サハギンどもは、あたいらの宝の地図を奪っていった。ってことはやつら、キャプテンミスリルの宝を欲しがってるってことさ。つまり宝の地図が示す場所に向かえば、やつらに遭遇するって寸法さね。──だけどあたいらだけじゃ、あいつらの大戦力に太刀打ちするのは難しい。そこでブレットさんたちの手を借りたいってわけさ」


「でもさ、その宝の地図が奪われちまったんだろ。その場所が分かんねぇじゃん」


 リオが突っ込むと、マリーナ船長は「チッチッチッ」と人差し指を振ってから、その指先で自分の頭をトントンと叩く。


「そんなもんは、あたいの頭の中にバッチリ入ってるさ。この海はあたいらの庭みたいなもんだからね。一度地図を見れば、どこのことを指してるかは一発で頭に入る。──ってわけで、どうだい? 宝の分け前はあたいたちが八、ブレットさんたちが二でいいよ」


 それを聞いて、俺はふっと笑ってしまう。

 別にこっちは、宝が欲しいとは言っていないのだが。


 まあここは定番だ、せっかくだから乗っかってやるか。

 俺は握手のために、マリーナ船長に向かって手を差し出す。


「いいでしょう。ただし分け前は六四だ。それ以上は負からない」


「さすがブレットさん、流儀が分かってるね。──よし分かった、じゃあ七三で決まりだ」


 マリーナは俺の手を、がっちりと握り返してくる。


 その後ろでは屈強な男の勇者たちが「今、熱き友情が!」「結ばれた!」などと叫びながらポージングをしていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 有名人だったのねブレットw 子供達も必死だなw [一言] お宝の地図とサギハンの居場所 共通してる?
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