真実~青信号
「いらっしゃいませー」
活気づく店内。行き交うスタッフ達によって運ばれる生肉を客が網の上に並べると白い煙とともに香ばしい匂いを撒き散らす。
短い休憩時間でまかない料理を夕飯代わりに食べた。
休憩時間の終わり際に別の高校に通う男が入ってきた。
「疲れたなー。あれっ、まかない二杯も食べたのか、すげーな」
タレご飯を二杯も食べるほど僕は大食いではなかった。
とうとうバイト先までついてきて「お肉っお肉っ」と隣ではしゃぐ彼女に肉はまかないでは食べれないと伝えられなかったのでどうなることかと思ったが、実際食べ始めたら美味しそうに食べていた。
彼女の任務は終わっている。なのになぜ帰ってくれないのか。話を少し戻そう。
ソラの「山崎サキが見えない」という発言を真剣に考えたとき、僕はソラと出会った日を思い出した。
僕にはソラが見えた。周りの人間には見えていないソラが。
霊感なんてないと主張する僕に「気づいてないだけ」と彼女は言っていた。
「山崎サキは幽霊ってこと?」
「たぶん」
「ソラには見えないの?幽霊同士なのに」
「正確に言うと、私は霊っていうか…神様」
…逆に神様のくせに見えないのか?
いや、ソラが本当に神様だったと仮定しての疑問だが。
「いきなり、私神様!なんていっても信じてもらえないと思ったし、背後霊も似たようなものだし」
いきなり、私背後霊!って言われて信じた僕も僕だけど…今回も信じてみようか。
「任務っていうのは本当?」
「うん。私新人の神様なんだけど、偉い神様に仕事を言いつけられて」
「山崎サキを助けろって」
「まさか見えない相手だとは思わなかった」
「どうすれば助けられるの?」
「それは任せて」
次の日の朝、僕は早起きしいつも家を出る時間よりかなり早めに外に出て隣の家の様子をこっそり伺う。
いつもと違う朝は少し新鮮に感じた。
そんなに待たず、山崎サキが学校に向かうため家を出てきた。元々会えば挨拶くらいは交わしていたので「おはよう」と声を掛けた。
「…はよう」耳を澄ませばなんとか聞こえる程の小さな声で返事が返ってくる。
なんと言って切り出せばいいかわからず率直に用件だけ伝える。
「今日、昼休みに屋上に来て」
僕の言葉にかなり驚いたようだ。目を丸くし立ち尽くしている山崎サキにさらに声を掛ける。
「頼む…」
返事はなかったが軽く頭を下げ山崎サキは歩きだした。
あとは、信じるしかない。
その間、僕の家からは目覚まし時計の必死な声が漏れ響いていた。
午前中の授業が終わり昼休みになった。
僕とソラは先に教室を出た。
屋上は今日も僕らの貸し切りだった。もしも誰か先客がいたらこの計画は実行出来なくなってしまう。
僕らが着いてすぐに山崎サキも屋上にきた。どうやら後ろからついてきていたらしい。
「来てくれてありがとう」
「…」
「ちゃんと話すのは初めてだね」
「……めんね」
山崎サキは目を伏せ、今にも泣きそうな声で話し出した。
「ずっと、謝りたくて」
「なにを?」
「君のお母さんのこと」
なんのことだろう。
「君のお母さんが車に轢かれて亡くなったとき、私の父が車を運転していてまだ幼かった私は後部座席に座っていたの」
「私の父があなたのお母さんの命を奪ってしまった。」
「…それは君が悪い訳じゃない。」
「お父さんはその時、慌ててハンドルをきって壁に衝突して死んだから。代わりに私が謝らなきゃ」
知らなかった。まさか隣人が事故を起こした相手だったとは。
そして恐らく彼女は気づいていない。伝えてやらなければ。
「…起きてしまったことは仕方ない。…君のお父さんのことは許せるかわからないけど…」
「ごめんなさい」
「でも、君が謝る必要はない。君も被害者だから」
「私は死んだ父の代わりに…」
「きっと君もその時、死んでる」
沈黙が続いた。
山崎サキはなにかを思い返しているかのようだったが暫くして顔が少し綻んだ。
「そっか。言われてみればそうかもしれない。あなた以外私に挨拶すらしてくれなかった」
今日までの彼女の生活(死活?)を考えると、可哀想に思えた。
「でも君に伝えられてよかった。本当にごめんなさい」
そういうと彼女は少しずつ透けてきた。
「バイバイ。教えてくれてありがとう」
「バイバイ。君たちのことはもう恨んではいないから、もしお父さんに会えたら伝えておいて」
にっこり笑った山崎サキの顔はすっと姿を消した。
「空に帰ったのかな?」
ずっと、隣で僕の話を聞いていたソラに尋ねる。
「きっとね」
「ところで君、なにかした?任せろって言ってたけど」
「お空に近いところにくれば帰りたくなるかなっておもったんだけど」
「つまり、そのあとはノープランだったってこと」
「だって私には見えないし」
二人で空を見上げる。
東から昇ってきた太陽はとても高いところにあり、見渡す限りの全てを照らしていた。
世界は巨大な青に包まれ、この世界がまだ神のものであることを感じさせた。
バイト先から帰宅し部屋に入った。
「頑張ってるユウ君はちょっと格好よかったよ」
「ねぇ、いつまでいるの?」
「だって、また似たような任務を任されても困るし…そしたら君に手伝ってもらおうかなと思って」
「背後霊から呪縛霊に変わったの?」
「だから神様なんだって。君のことはお母さんが守ってくれてるよ」
「そうなの?」
「きっと。私には見えないけどね」
そう言って微笑むソラ。
「ずっと、他人に居座られるのもなぁ…」
「じゃあ彼女にでもなろうか?」
「……ずっと、床で寝るのもなぁ…」
「隣で寝てもいいよ」
最後まで読んで下さってありがとうございます。
拙い文章ですがなんとか物語を終わらせることが出来ました。
ご意見、ご感想などお待ちしております。