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「次はー、東新後ー、東新後ー」
スマホをイジる手を止めてアナウンスに耳を傾ける。そういや、私とアイリの出会った場所ってここだったよなー。私としては敵に等しいクソギャルビッチだったなー。ほんの初見の話だけどさ。でも、中身はウブで乙女乙女してるとか、ギャップ萌えで殺す気マンマンとかズルすぎんだよ。しかも柔道も強いってもう完璧超人だよアイツは。うん。
趣味や食べ物の好みが一致していて仲良くなって幸せだよ。私は。できたらふたりの時間を一分でも一秒でも長く共有してーもん。……ま、そんなことシラフじゃ言えねーけどさ。だって、それってもう恋人――
「ちょっとそこのあなた」
茶髪をポニテにした女が目の前にいた。黒のパンツスーツだから、就活中なんかな。化粧が決まってて結構キレイ目の人だ。
「鼻血。出てるわよ」
ポケットティッシュを一枚こっちに渡してきた。ああ、確かに意識すれば血のニオイがするわ。妄想が炸裂してて全然気づかなかった。
「ありがとうございます」
ティッシュをちぎって鼻に詰めているとと、就活女子は仕切り棒に握り、体を屈めて耳に口を寄せてきた。
「人前での妄想はほどほどに、ね♪」
「……すみません」
ハァ? 何コイツ超ウゼえ。弱み握って泣かしてぇ。
「それじゃね」
ちょうどよく空いたドアから颯爽と出ていった。チッ、命拾いしたな。