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私は今モーレツにキレている。
しかし、学校では品行方正そのものの学生として通っているから、そんじょそこらで怒りをブチまけるにはいかなかった。
だから、学校帰りに行きつけの喫茶店の小部屋に入った。防音仕様になっていて外に聞こえないはずだ。私も仏様ほど気は長くない。早速――
「あのバカタレギャル女が! なんで! 連絡を! 寄越しやしねーんだよ! 私はオマエにとってなんなんだよ!!!」
カバンに入っていた赤にラッピングされたチョコを、怒りに任せて漆塗りのテーブルに叩きつけようとしたときだった。
ピロピロリン♪
スマホからメッセージを受け取った音がして、ひとまず己の早まった行動に急ブレーキがかかった。
メッセージの差出人が目に入った瞬間、胸が大きく高鳴った。
アイリからだ。
『連絡が遅くなってごめんなさい。おととい――2月13日――の夜から高熱が出たと思ったら、インフルエンザに罹ったみたいで……。昨日――2月14日――はスマホを操作する余裕もなく、ずっと寝てました。今はこうして少し余裕ができたからメッセージを送れたの。本当に約束を破ってごめんなさい。インフルエンザが治ったら約束の喫茶店でおいしいスイーツを食べようね』
何度も首を上下させて冷静になるまで文面を読み込む。頭が冷えて理解ができた途端、自己チュー的な自分の情けなさに腹が立った。とりあえず、自分でみぞおち辺りにパンチをした。我ながらキレイに入ってしまい、くの字になっているところを店員に女の子に見られた。死ぬほど恥ずかしいぞコノヤロウ。
「大丈夫ですか?」
「ただの腹痛でして。今日は失礼致します。また近々伺いますので」
「は、はぁ……」
よし、なんとかお嬢様ボイスとスマイルでごまかした……と思う。
店を出て駅に向かう。確か1回だけ近辺で待ち合わせて遊びに行ったことがあったはず。
うっすらとした記憶を頼りに、私は駅の改札のくぐった。